佐々木亮(弁護士)

 「残業代ゼロ法案」と呼ばれる法案がある。この法案の枕詞として、多くのメディアがつける言葉がある。それは「働いた時間ではなく成果で評価する制度」である。短く「成果型労働」、または「成果型賃金」という場合もある。

 そして、賛成論者も、残業代ゼロ法案の中の「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)について、成果型賃金になることを前提に論じ、私のような法案反対派を「経済の分かってないやつ」的な扱いをする。
厚生労働省などの入る中央合同庁舎5号館=東京・霞が関(撮影・桐原正道)
厚生労働省などの入る中央合同庁舎5号館=東京・霞が関(撮影・桐原正道)
 しかし、この法案の高プロ制度に関する条文を目を皿のようにして読んでも、どこにも「働いた時間ではなく成果で評価する制度」の導入を義務付ける条文はない。もっといえば、賃金制度には一切言及していないのである。にもかかわらず、多くの賛成論者は、それが前提となっているかのように論じる。私からすれば、そういう論者にはぜひ条文をお読みくださいと言いたい。

 この法案が国会に上程される数年前、私はあるBS放送の番組に出て、某エライ学者の方と論争をしたことがある。その際、その学者の先生が掲げたフリップで、本法案のメリットというものが3つほど記載されていた。それは次の通りである。

① 労働時間の上限が初めてできた

② 残業代を稼ぐためにダラダラと働く必要がない

③ 女性・若者・高齢者が活躍しやすくなる

 私はこれを見て、思わず笑ってしまったのであるが、まず、①は嘘である。高プロ制度には、一応「健康確保措置」というものがあり、3つのうちから1つを選択すればよいとされている。その3つとは、以下のものである。

① 労働者に24時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること

②健康管理時間が1か月又は3か月について一定の時間を超えないこととすること

③4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を与えることとすること

 この3つから1つ取れば、あとは規制がない。おそらく、学者の先生が言いたいのは、この②であると思われる。しかし、②を選択する義務は企業にはない。したがって「労働時間の上限が初めてできた」というのはミスリードであり、嘘である。ちなみに、1つ選択すればいいだけなので、どういうことが可能になるかというと、たとえば、③を選択して1日24時間働かせることもできるし、①を選択して1年360日働かせることもできるわけである。