八代尚宏(昭和女子大グローバルビジネス学部長・特命教授)

 労働時間に関するルールの見直しを含めた労働基準法改正案が秋の臨時国会に提出される。ここでは、一般の労働者についての「残業時間の上限規制」と、高度な専門職について「残業代とは切り離した休業日数の規制」が盛り込まれている。
労働基準法改正案などが議論された労働政策審議会分科会=8月30日、厚労省
労働基準法改正案などが議論された労働政策審議会分科会=8月30日、厚労省
 従来の労働時間規制の手段は、もっぱら企業に対して1日8時間、週40時間を超える労働時間について、残業代の支払いを強制するのみで、企業が労働組合などと特別な協定を結び、残業代さえ支払えば青天井の残業時間が可能であった。この抜け穴を防ぎ、法定の残業時間の上限を労使が超えないように罰則付きの規制で担保することが今回の改正法の趣旨である。この考え方は、上司の具体的な指示なしに働く高度専門職についても基本的に同様であり、年間の休業日数を明確に定める規制の設定により、過度の労働時間の抑制と過労死を防ぐことが目的である。

 こうした従来の「残業代規制」の代わりに、労働時間の直接的な制限である「休み方規制」を導入した改正案の論理に対して「残業代をなくすな」という反対論が大きい。この問題点を以下で指摘したい。

 現行の残業労働に割増賃金を支払う制度は、労働者が1時間余分に働けば、それに見合った量の製品が生産される集団的な工場労働などの働き方について合理的な仕組みである。他方で、個人単位の働き方であるプロジェクトの企画や研究者などの高度専門的な業務では、机の前に1時間座っていても何も生み出さない場合もある。労働時間の長さよりも仕事のアウトップット(成果)の質が重要である。

 高度の専門職については、長時間働いても成果の上がらない者よりも、短時間で高い成果を上げる者の方が高い報酬を得ることが公平である。このため独立的に働く高度専門職について、時間に比例した残業手当を除外する仕組みが、欧米では一般に活用されている。

 他方で、この成果に応じて賃金を決定する仕組みでは、過剰な仕事量を求める使用者や、自ら長時間労働で生産性の低さを補おうとする労働者もあり得る。このため残業時間に上限を課す一般労働者と同様に、一定日数の休業を使用者に義務付けることで「健康確保措置」を図っている。このどこが「過労死法案」なのだろうか。