2017年09月04日 14:38 公開

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)研究員 ジャスティン・ブロンク

ドナルド・トランプ米大統領は、北朝鮮が水爆実験に成功した後、攻撃するのかと問われ、「今に分かる」と答えた。ならば、金正恩体制への軍事行動とは実際に、どのようなものになるのか。

北朝鮮は国連制裁や国際的圧力をものともせず、米国本土に到達するかもしれない核兵器を開発し、ミサイル発射実験を実施した。

北朝鮮が日本の北海道上空を通過するミサイルを発射した際、日本の住民は避難し、トランプ大統領は「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と述べた。

米国の軍事力は確かに比類ないものだが、孤立して引きこもってきた北朝鮮に実際に使える選択肢は限られている。

オプション1 「封じ込め強化」

最もリスクが少ないが、ややもすれば最も効果が少ない選択肢だ。単に既存の兵力配備を強化するだけで、既存の配備はこれまで北朝鮮の弾道ミサイル・核兵器開発の抑止にほとんど成功してこなかったからだ。

米国は韓国に地上部隊を増派することができる。批判の多い地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)」など、地上ミサイル防衛システムや重火器、装甲車も含めて韓国に増派し、言葉による要求を武力で裏打ちする用意があるのだと示すというわけだ。

しかし韓国はTHAADの配備を一時的に中止したし、北朝鮮を不用意に挑発する懸念から、在韓米軍の地上部隊増加には強く反対してきた。

実際に米国がそのような動きをとれば、北朝鮮はほぼ間違いなく、地上からの進攻作戦の前段階だと受け止めるだろう。現に毎年恒例の米韓合同軍事演習にも、北朝鮮は強く反発してきた。

中国とロシアも、強く抗議するのは必至だ。さらに両国は、東欧や南シナ海、東シナ海など他の地域で米国を困らせることができる。

米海軍は弾道ミサイルを撃墜できる巡洋艦や駆逐艦を増派したり、第2の空母打撃群を派遣したりと、朝鮮半島周辺でのプレゼンスを拡大することもできる。

海軍のほか、米空軍はグアム、韓国、日本の基地で戦闘攻撃飛行隊や補給タンカー、哨戒機や重爆撃機を増やし、前方配備型の空軍力を強化することも可能だ。

しかし世界中に展開している米国の海軍と空軍はただでさえ大きい負担を抱えている。イラクやアフガニスタンなどでの戦闘支援が10年以上、途切れることなく高レベルで続いていることも、両軍の負担を大きくしている。

時間は北朝鮮に有利に働いているというのが、より重要なのかもしれない。米軍の展開を強化したとしても、北朝鮮の急速に成熟する核開発計画や弾道ミサイル実験のプロセスは、それだけでは自動的に止まったりしないからだ。

北朝鮮の領空外を飛ぶ弾度ミサイルは撃破すると公約するには、半島周辺の米海軍配備を大幅に拡大しなくてはならない。

北朝鮮は多数の弾道ミサイルを保有しているのに対して、米国の迎撃ミサイルは非常に高価で、艦ごとに限られた数しか搭載していない。ゆえに、北朝鮮は米海軍に迎撃ミサイルを使い切らせ、防衛力を奪うことができる。そうなれば米艦艇は基地に戻るしかなくなる。

つまりこのオプションは非常に高価で、かつおそらく持続不可能で、その上、直接的な軍事対決に事態を悪化させ得る危険なものだ。

オプション2 「ピンポイント空爆」

米空軍と海軍は、世界最先端の局所空爆、ピンポイント空爆の能力をもつ。

北朝鮮の主要核施設や弾道ミサイル拠点に対し、北朝鮮沖の潜水艦からトマホーク・ミサイルを次々と発射し、B2ステルス戦略爆撃機で空爆を実施するという案は、一見すると魅力的なものに思えるかもしれない。

重要標的に大損害を与えられるのは間違いない。地下深い強化施設は、3万ポンド級の大型貫通爆弾で攻撃できる。

攻撃直後の米軍機がどのような被害を受けるかは、複数の要因次第だ。北朝鮮がどれほど事前情報を得ているか、爆撃飛行の回数、レーダー探知を受けないステルス型ではない戦闘機がどれだけ参加するかなどによる。

しかし北朝鮮の防空力は、非常に把握しにくい。50年の間に入手した、ソ連・ロシア製と中国製と自国製の地対空ミサイルとレーダーシステムを組み合わせたものだからだ。

北朝鮮の防空網は地上でも特に密度の高いものだが、どの程度まで改良刷新されてきたのか、どの程度まで臨戦態勢にあるのかは、把握しにくい。

もし敵の攻撃や事故で米軍機が墜落したら、米国は乗務員の救出を試みるか、あるいは世間の目前で悲惨な目に遭うのを放置するか、選択を迫られるという悪夢のシナリオに直面することになる。

しかし、たとえ核・ミサイル施設への空爆が成功したとしても、軍司令本部や国家指導部そのものが反撃を命令するだろう。そのことの方がはるかに重要だ。

核・ミサイル拠点が破壊されても、朝鮮人民軍はただちに韓国に報復攻撃する能力を残すだろう。米国の主要同盟国の韓国は、否応なしに大打撃をこうむることになる。

朝鮮人民軍には、正規兵が100万人以上いる。そして、予備役と準軍事部隊は推定600万人超と言われる。

軍事境界線沿いの非武装地帯を中心に配備されている、大量の通常兵器やロケット砲の多くは、韓国の首都ソウルを射程圏に収めている。ソウルの人口は約1000万人だ。

使用可能な核兵器を持たず、積極的に韓国を侵攻しなかったとしても、金体制は壊滅的な打撃をもたらすことができる。そうすれば、これまでのような米韓相互防衛同盟はおそらく終わりとなるだろう。

オプション3「全面侵攻」

朝鮮人民軍の規模と火力と密度の高い防空力に加え、韓国は米国の軍事行動を支持したがらないだろう。となると、米軍による北朝鮮全面侵攻というオプションは、きわめてあり得ない。

そして双方で何十万人もの人命が失われる。

重火器による爆撃に加え、朝鮮人民軍はかねてから特殊奇襲部隊による大がかりな韓国潜入作戦の訓練を重ねている。レーダー探知されにくい速度の遅い、低空飛行の複葉機や小型艇、小型潜水艦などを使う作戦だ。

大規模な軍事紛争となれば、この潜入部隊によって混乱に拍車がかかり、人命はさらに失われる。技術的にははるかに高度でも人数の少ない米軍や韓国軍は、その対応に四苦八苦する羽目になる。

米国と同盟軍が前回、北朝鮮に進攻したのは1950年からの朝鮮戦争のことだ。中国は自分たちの国境沿いに、米国寄りの統一朝鮮半島が成立しないよう、北側を支援して参戦した。

今の中国も同じだ。国境の向こうに米国と同盟した朝鮮半島が出現することを、中国はまだ検討しようとしていない。だからこそこれほど長く、金王朝を支援してきたのだ。

最後に、並べてきたような大問題が何らかの形で克服でき、米軍主導の北朝鮮侵攻が成功したとしても、破壊された国の再建は米国の責任ということになる。

北朝鮮は過去60年間、比類のない心理操作と慢性的な経済のひっ迫、そして孤立状態の中で生きてきた。

冷戦終結後の東西両ドイツ再統一はすさまじい努力を要した一大事業だったが、北朝鮮再建に伴う困難を思うと、かすんでしまう。

北朝鮮に対して米国が使える軍事的オプションはいずれも、高いコストと相当なリスクを伴う。それが現実だ。何をどうすればどうなるか、いずれも不確実で難問山積の未来を前にして、米国はコストとリスクを比較衡量しなくてはならないのだ。


<筆者について>

ジャスティン・ブロンク氏は、独立シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」の研究員。空軍戦闘力と技術が専門。ツイッター・アカウントは@Justin_Br0nk

本稿はBBCが外部機関の専門家に解説記事を依頼したもの。

編集――ダンカン・ウォーカー


(英語記事 North Korea: What are the military options?