「電磁パルス攻撃」が次の一手? 核実験も疑わしい北朝鮮に騙されるな

『原田武夫』

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原田武夫(元外交官・原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役)

 9月3日、北朝鮮を震源地とする大きな揺れが観測された。これを受けて北朝鮮は「水爆実験に成功した」と主張し、国際社会全体に衝撃を与えた。北朝鮮は先日も弾道ミサイルを太平洋上に向けて発射し、北海道をまたいでわが国に対して深刻な恐怖を与えたばかりだ。
北朝鮮核実験のニュースを報じる街頭モニター=9月3日、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影)
 しかもそれだけではない。今後、北朝鮮は一般には聞きなれない「電磁パルス攻撃」なるものまで仕掛けて来ると言われている。「次の一手」として北朝鮮が一体どのタイミングで何をしでかしてくるのかに注目が集まっているのである。

 私は2005年春まで外務省にキャリア外交官として勤務し、最後は北東アジア課で北朝鮮班長を務めていた。わが国の対北朝鮮外交の最前線にいたわけであるが、そこで積んだ経験、さらにはその後、外務省を自主退職して以降、さまざまな方面から収集した情報をベースに「私たち日本人はいま何を考え、そしてこれから何をすれば良いのか」について書いてみたいと思う。

 最初に考えなければならないのはそもそも北朝鮮の「主張」が真実なのかという点である。

 「弾道ミサイルが発射されたのは本当であり、また巨大な揺れを感じた以上、水爆実験が行われたことも真実のはず。これ以上何を疑う必要があるのか」

 読者はきっとそう考えるに違いない。しかし、プロの「北朝鮮のウォッチャー」の視点からすると最初にこの点こそ真正面から疑ってみる必要がある。それはなぜか。

 例えば、今回の「水爆実験成功」なる北朝鮮の主張を取り上げてみよう。実は核不拡散の専門家の見地からいうと、まだ本当に「水爆実験」であったかどうかは分からないというのが正直なところなのだ。

 なぜなら、非常に簡単にいうとこうした核実験が行われたことを確認するためには、下記の3つの要件が必ず必要だからである。

①巨大な揺れが世界中に設置されている「包括的核実験禁止条約(CTBT)」事務局公認の地震計(わが国では長野県・松代に設置されている)で均(ひと)しく観測される必要がある。

②核実験を行った時のみに観測することができる特定の放射性物質(キセノン等)を空気中で実際に採取することができる。

③ 中立的な専門家が当該国の現地を実際に訪問し、確認すること

 しかし、北朝鮮がこれまで「核実験」として主張してきた例を見ると、①~③まで全ての条件がそろったことは一度もないのである。③については北朝鮮という閉鎖的な国柄から考えて、当然、現地査察は認められないとしても、②も毎回観測できているわけではないのだ。そして、①も実のところ、専門家たちの間では「核実験が行われたと考えるのに十分な揺れ」が全ての観測地点で観測されているわけではない。
核実験に加えミサイルも

 それでも米国やわが国をはじめとする各国は、どういうわけか「北朝鮮が核実験を行ったこと」を認め、そのことを前提に議論してしまっているのである。むろん、弾道ミサイルの開発が北朝鮮において順調に進んでいることは確かなのだから、悠長なことを言うべきではないという意見もあるはずだ。だが、その肝心の「弾道ミサイル」開発についても、ここに来て「どうやらウクライナからミサイルエンジンを輸入しているらしい」という分析を米インテリジェンス機関が公開したばかりなのである。

 つまり、北朝鮮は完全に自分自身で弾道ミサイルを開発し、それに「核弾頭」を載せて威嚇しているわけでは決してないのである。そもそも弾道ミサイルについては、どこか外部の勢力からの支援を受けて開発しているに過ぎず、また「核弾頭」は存在するかどうかさえ分からず、その大前提としての「核実験」についてすら、本当に行われているのかどうか、全く定かではないというのが実態なのだ。

 だが、米国をはじめとする関係諸国はすでに「北朝鮮がいよいよ米領グアムに対して弾道ミサイルを発射すること」を前提に動き出している。先日まで「北朝鮮はよく自制をしてきている」として対話の用意があることすら示唆していたトランプ米政権も、どういうわけか軍人たちを筆頭とする「主戦論」に転換し、下手すれば「第二次朝鮮戦争」にまで発展しかねない軍事的衝突を今や遅しと待ち構えている可能性がある。
演説するトランプ米大統領=8月22日、アリゾナ州フェニックス(AP=共同)
 しかも、わが国はそうした中で北朝鮮が隣国であるにもかかわらず、主体的な動きをすることができず、明らかにもがいているのである。事実、わが国の上空をまたいでいった先日の弾道ミサイルに対して、事前及びその飛行中にわが国は何もすることができなかった。もはや「国民の生命と財産」と言う意味での「国益」は政府であっても守れないことが露呈しているというのが実態なのである。

 しかし、そうした状況の中であっても驚き、慄(おのの)いてはならないというのが私の考えである。むしろ、北朝鮮をめぐる現下の情勢において、ある意味では、わが国が明らかに「当事者能力」を失っているからこそ、冷静に今の状況を見つめる必要がある。そうして、グローバル社会の背後にうごめく、日本古来から伝えられる妖怪「鵺(ぬえ)」のような不可思議なものが、この出来事を通じて一体何を実現しようとしているのかをはっきりと見いだすべきなのである。
東アジア秩序の大転換

 なぜならば、今回の北朝鮮をめぐる一連の「出来事」はあまりにも「できすぎたストーリー」だからだ。事実、突然「テロ」に遭って亡くなった金正男から始まり、ここに至るまでの北朝鮮をめぐる一連の展開は話ができすぎている。
北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏=2007年3月18日
マカオ市内(清水満撮影)
 
 その金正男が実のところ、ある段階まで「今後、北朝鮮の金正恩体制が事実上崩壊した際、暫定大統領として自由選挙を取り仕切る役割を果たすべき人物」として、マカオで米国と華僑・客家集団の取り決めに基づき「温存」されていたことは、グローバルなインテリジェンスの世界では「常識」だった。ところがある時、何者かによってこのシナリオは完全に破棄され、少なくとも表舞台から金正男は姿を消したのであった。

 このような展開を前に各国の情報機関でも動揺が走っているように見受けられる。なぜならば、より上位の意思決定によって明らかにこの「シナリオ」は放棄され、そこからやおら、北朝鮮の金正恩体制による暴走が露呈し始めたからである。そして現体制は明らかに「自滅」に向かっている。

 このままいけば、弾道ミサイルはグアムに向けて発射され、それに対して怒り狂うトランプ米政権は一気にミサイル攻撃を北朝鮮に対して仕掛け、その軍事力を極めて短時間で「無能力化」するのは目に見ている。「裸の王様」となった金正恩に統治能力はもはやないに等しいが、問題はその時「彼の身に何が起こるのか」なのである。

 万が一、金正恩が「命を落とす」といったケースが自然な形で起きてしまった場合、なし崩し的に北朝鮮における体制転換が生じ、これが韓国をも含む朝鮮半島全体の再編を促し、ついには周辺諸国をも含む、いわば「環日本海秩序」とでもいうべきものをリニューアルする流れが一気に始まる可能性がある。

 国際社会のより上部に位置しながらその歩みの連続として「世界史」を動かしている「鵺(ぬえ)」は今、いよいよ決断し、動かし始めたと考えるべきだと私は分析している。

 そして何よりも問題なのは、「加計問題」など国内問題に相も変わらず揺れている安倍政権が、果たしてこうした極めてハイレベルな国際社会の最上部における決断に対して、応分の貢献が主体的な形でできるか否かなのである。広い意味で言えば「2019年に主要20カ国・地域首脳会議(G20)の議長国をわが国にする」という決定は、そのための機会として与えられたものであることを私たちは忘れてはならないのだ。

 そして、その先においてわが国が憲法でうたう「国際社会における名誉ある地位を占める」ことができるかどうかは、今この瞬間から始まっている「グレート・ゲーム(政治的駆け引き)」において、私たち日本人一人ひとりがいかなる自覚をもって、どのように動くのかにかかっているのである。そのことを決して忘れてはならない。

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