金正恩朝鮮労働党委員長
金正恩朝鮮労働党委員長
 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。

 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。

 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。

 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。

 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。

 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。