北朝鮮危機で漁夫の利を狙うロシアはどう動くか

『小泉悠』

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小泉悠(軍事アナリスト、未来工学研究所特別研究員)

 9月3日、北朝鮮は6回目の核実験に踏み切った。わが国の防衛省によるとその爆発威力は70キロトン(工業用のTNT火薬7万トン分)と推定されており、過去5回の核実験に比べて格段に威力が大きい。北朝鮮自身はこれを水爆実験であると称しているが、実際にその可能性が排除できなくなってきた。

 このような中で、北朝鮮の隣国であり友好国でもあるロシア側の立場とはいかなるものであろうか。本稿ではこの点について考えてみたい。

 北朝鮮に対するロシアの立場は、原則的には中国と似たものである。すなわち、北朝鮮で体制崩壊が発生し、米国の同盟国である韓国の主導で朝鮮半島が統一される事態は緩衝地帯維持の立場から阻止しなければならない。したがって、両国は北朝鮮に対する米国の強硬姿勢を牽制(けんせい)する姿勢を度々見せてきた。その一方、北朝鮮が長距離弾道ミサイルと核兵器によって核保有国となることは、東アジアにおける米国の軍事プレゼンスを一層確固たるものとし、自国周辺にミサイル防衛システムが配備される事態を招く。この意味では、中露にとって望ましい状況とは、核を持たない北朝鮮の体制が存続することであるといえよう。

 ただ、そこには温度差も存在してきた。ロシアにしてみれば北朝鮮は政治経済中枢である欧州部から数千キロも離れた場所にあり、陸上国境は22キロを接しているにすぎない。東北部で1400キロもの国境を接する中国とは、北朝鮮問題に関する切迫性は全く異なる。経済的に見ても、北朝鮮との深いつながりを有する中国とは異なり、北朝鮮の貿易総額に占めるロシアのシェアは3%にすぎない。ただし、中国から北朝鮮に輸出されている原油の一部はロシア産ともいわれ、こうしたシャドー経済を含めると実際の経済的利害関係はもう少し大きい可能性がある。
BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=4日、中国福建省アモイ市(共同)
 軍事的には、ロシアはバイカル湖よりも東には大陸間弾道ミサイル(ICBM)部隊を配備しておらず、オホーツク海から発射される潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も北回りのコースを取ることから、東アジアにおいて米軍のミサイル防衛システムが増加してもロシアの核抑止力が直ちに脅かされることはない。
ロシアがさらに「北寄り」になったワケ

 それゆえに、北朝鮮問題に関するロシアの立場は米中の陰に隠れることが多く、「忘れられたプレーヤー」とまで言われてきた。

 しかし、ロシアの態度は常に不変というわけでもない。例えば、北朝鮮が2006年に初の核実験を行った際、ロシアはこれを厳しく非難し、北朝鮮に対する武器禁輸措置に踏み切った。また、日本が米国とともに進めているミサイル防衛システムの開発についても、北朝鮮のミサイル脅威を考えればある程度は仕方ないとして、欧州へのミサイル防衛システム配備とはやや異なるトーンで接してきたことも注目される。

 これに対して昨今の朝鮮半島を巡る軍事的危機に際しては、ロシアは以前よりも北朝鮮寄りの立場を示している。例えば、今年7月に北朝鮮がICBM「火星14号」を2回連続で発射した際には、同ミサイルが2800キロ(1回目)および3700キロ(2回目)という超高高度に達したことから、実際の最大射程は6700~1万キロ程度に達するであろうと周辺諸国は推測した。これに対して、ロシアは自国の弾道ミサイル防衛システムの観測結果としてこれよりもずっと低い数値を発表し、北朝鮮のミサイルはICBMではないと主張。この「結果」と称するものを国連代表部に配布させ、北朝鮮非難のプレス向け決議の発出を阻止するという挙に出た。
8月17日、ロシア・ウラジオストク港に入港する北朝鮮の貨客船「万景峰」(共同)
 また、ロシアは2013年ごろから日米のミサイル防衛協力にも懐疑的な姿勢を示すようになり、2015年版「国家安全保障戦略」では欧州だけでなくアジア太平洋のミサイル防衛を戦略的安定性の既存要因に初めて含めた。最近ではプーチン大統領が北方領土における軍事力強化を、朝鮮半島における米の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)への対抗措置と位置付けたり、ロシア外務省が日本の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」導入を非難するなど、かつてとは大きく態度を変えてきている。

 このようなロシアの姿勢変化は、主に次のような要因によって説明されよう。

 第1に、ウクライナ危機などをめぐって対米関係が極度に悪化した結果、ロシアは世界の各地で米国の対外政策を妨害しようと試みるようになった。第2に、北朝鮮の核・ミサイル能力の向上によってこれまでは比較的ローカルな問題であった北朝鮮問題がグローバル化し、ここにおいてロシアの存在感を示すことへの誘因が強まった。そして第3に、西側との関係が悪化することでロシアの対外政策における中国の比重が高まり、中国と安全保障上の歩調を合わせること(あるいはそのように振る舞うこと)の必要性が高まった。特に今年春ごろの時点では、米国のトランプ政権が米中接近によって北朝鮮問題の解決を図ったこともあってロシアが置き去りにされる懸念を抱いていた節もあり、対中協調が一層必要とされたのだと思われる。
ロシアは「機会主義的プレーヤー」

 総じて言えば、ロシアの抱えるグローバルな問題と北朝鮮問題のグローバル化が相互に共振した結果が現在の状況につながっているといえよう。そして、これを少し違った言い方で表現するならば、ロシアは朝鮮半島問題に死活的な利害関係を有しているわけではなく、北朝鮮に決定的な影響力を及ぼせるプレーヤーでもない、ということになる。どちらかといえば、朝鮮半島問題の緊迫化を利用して自国の利益を最大化すべく機会主義的に振る舞っているとみた方がよいだろう。
8月5日、国連安全保障理事会で北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択後、握手するロシアのネベンジャ国連大使(右)と米国のヘイリー国連大使=米ニューヨーク(共同)
 では、このような背景の下で、ロシアは今後、どのような態度に出てくるだろうか。中国と同様、ロシアとしても北朝鮮の核保有を容認したわけではなく、今年8月には中露を含めた国連安全保障委員会の全会一致で北朝鮮に対する制裁強化が決定されている。その一方、中露は北朝鮮のミサイル実験凍結と引き換えに米韓軍事演習も行わないとの「ダブル凍結」提案を行っているほか、ロシアは北朝鮮の核・ミサイル実験を非難しつつも制裁や軍事的圧力では北朝鮮を止めることはできないとの姿勢も打ち出している。当面、ロシアはやや北朝鮮寄りに修正した従来の姿勢を維持する可能性が高いといえよう。

 気になるのは、ここにきて米国でにわかに盛り上がっている北朝鮮の核容認論をロシアがどう取り扱うかであるが、おそらくここでもロシアの姿勢は現在の延長線上にとどまるだろう。例えば、北朝鮮の核や長距離ミサイルを破棄ではなく凍結させる代わりに、東アジアにおける米軍のプレゼンス縮小やミサイル防衛システム配備の撤回など、北朝鮮の体制保証の名目でロシアに有利な取引条件を提案してくることが考えられる。

 つまり、朝鮮半島問題に関するロシアの利害や影響力が極端に増加する見込みが小さい以上、今後ともロシアは「機会主義的プレーヤー」としての存在にとどまるだろう。ただ、機会主義的であるなりにロシアの存在感が高まっていることもまた事実であり、日米としてこの古くて新しいプレーヤーを北朝鮮問題にどう組み込むかを再考することが求められよう。

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