非現実的な南北統一

 こうした中国の動きに対して、韓国の文在寅大統領は韓国主導による南北統一を強く主張するだろう。しかし、現在の韓国には統一に必要な費用を捻出する余力がないうえ、南北統一のロードマップすら策定できていない。

 これは、朴槿恵大統領が2015年2月16日、大統領府で大統領直属の統一準備委員会を開催して、南北統一のロードマップを策定するよう述べていることからも裏付けられる。

 ロードマップを策定するにあたっての障害は、南北統一に必要な費用、すなわち統一コストの問題だろう。統一コストには2400億ドル(約26兆円)という数字もあれば、2兆ドル(約220兆円)という数字もありバラつきが激しい。

 これは、北朝鮮が経済統計を発表していないため、韓国銀行(中央銀行)などが北朝鮮の経済指標を推定せざるを得ないことと、インフラの整備や工場の再建などに、どの程度の費用が必要なのか分からないためであろう。

 とはいえ、南北統一にはさまざまなシナリオが考えられるが、どのような形にせよ、大量の難民の発生が最大の問題となる。難民の流入を防止するため、韓国では1990年代に、北朝鮮の国民1人ずつに生活補助金を与える場合とそうでない場合を想定したシミュレーションを行ったことがある。

 このシミュレーションの結果、生活補助金を与えない場合の年間流入者は140万人、月額10万ウォン(現在のレートで約9800円)で102万人、20万ウォンで80万人となった。

 韓国が受け入れ可能な単純労働者は67万人であることから、20万ウォンを援助しても1年で限度を超えることになり、難民の受け入れができないことが改めて証明される結果となった。

 一方、韓国政府は1997年7月に詳細な難民対策案を作成している。これは「30日計画」と呼ばれるもので、同計画よると難民流出は1か月間で韓国に10万人、国境を接する中露などに20万人の計30万人を想定し、「国際会議」の構成や日本からの食糧・財政支援などを含めた具体的な対応策を構想している。

 いずれにしても、韓国の負担はあまりにも重い。筆者は南北統一に関する事項を管掌する統一部のレポート類を読んでいるが、読めば読むほど南北統一の難しさを感じる。

北朝鮮の命運を握る中国

 これまで述べてきたように、韓国主導による南北統一は非現実的であるため、金正恩排除後の北朝鮮の命運を握るのは中国ということになる。

 米国が武力行使する可能性については、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯であるため、トランプ政権は現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため現実的ではない。

 しかも、米国防総省は、2012年2月1日に公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、「同時に発生した2つの地域戦争に対応する二正面作戦の実行を可能にする」という方針を改め、対武装勢力、対テロ作戦を重視した柔軟な国防体制に転換する方針を明らかにしている。

 現在は北朝鮮への圧力として、グアムのB-1B戦略爆撃機を韓国上空へ派遣することしか出来ていない。朝鮮半島近海に空母を派遣していないことについては、空母の維持費は年間600億円とも言われており、1隻だけで毎日億単位の予算を消費することになる。このため、朝鮮半島近海だけに配備するわけにはいかないのだ。

 結局、米国は北朝鮮に手を出すことができず、中国の動きを黙認せざるを得ない。つまり、金正恩政権の将来は米国ではなく中国に握られているのだ。

 そろそろ金正恩は自分の命運を習近平が握っていることを自覚し、中国の意向を考慮した行動を取る必要があろう。これ以上、中国を怒らせることは、長期的に朝鮮半島の不安定化を招くことになる。

 金正恩が排除された場合は難民の流入など、日本も他人事ではなくなる。中国や韓国だけでなく、日本も「その時」に備えておく必要があろう。

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