2017年09月06日 17:46 公開

ケリー・ブラウン教授、キングス・コレッジ・ロンドン

中華人民共和国は、条約で縛られ義務を負わされることを非常に嫌う国だが、それでも小さい北東の隣国とは特別な関係を築いてきた。

中国が相互義務の伴う条約を結んでいる外国は、北朝鮮だけだ。1961年7月に交わした中朝友好協力相互援助条約は、条文は7つしかない。

最も重要なのは第2条だ。

「両締約国は、一方の締約国に対するいかなる国の侵略についても、これを防止するため共同であらゆる措置をとる。いずれか一方の締約国が、いかなる国家や複数の国から武力攻撃を受け、それによって戦争状態に陥った際には、他方の締約国は、可能なあらゆる手段によって軍事その他の支援を直ちに提供する」

要するに、つまり、仮に米国や韓国といった外国が一方的に北朝鮮を攻撃した場合、中国はどうするのかと聞かれたら、簡単な答えがここにある。

この条約に従い、中国は北朝鮮の側について関与する義務がある。ほかの何よりもこの条文こそが、中朝関係がいかに今でも歴史的経緯に影響され続けているか、如実に表している。

非常に強力な前例がある。この条約がまだない1950年でさえ、朝鮮戦争に国連軍が参加するや、中国は100万人の兵を投入した。自分たちに依存する国として、そして緩衝地帯として、中国は当時よりはるかに強力な軍事力を投入し、北朝鮮を守ろうとする可能性がきわめて高い。

条約締結の1961年と現在の中国では状況が凄まじく違うと言っても、北朝鮮との間の取り決めは続いている。


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1976年に毛沢東が死去して以降、中国は社会主義のユートピア的理想を頑なに追求するのをやめ、幅広い改革を実施した。その結果が現在の中国の、複雑に入り組んだ国家体制だ。そして中国の存在感は、経済的にも地政学的にも、大いに成長した。

北朝鮮の置かれた状況は違っていた。30年にわたる統制下での生ぬるい改革努力は、ほとんどうまくいっていない。

中国は2000年代初頭、故・金正日総書記を招待し、上海の経済特区を見学させた。マルクス・レーニン主義体制を維持しつつも、西側資本主義と取引可能な輸出型製造産業と、それを中心とした経済をどうすれば作ることができるか、やり方をいろいろ例示したのだ。

中国は説得しようとしたが、北朝鮮側は聞く耳を持たなかったらしい。独自の純粋な国家主義の「主体思想」を掲げる北朝鮮にとって、よその経済モデルを真似するなど受け入れられないことだった。

現在に至るまで、もし北朝鮮に何らかの市場らしきものが存在するとしても、それは非常に限定的なものに過ぎず、国の軍事目標と体制維持の実現のために存在する市場のはずだ。

近年の中国が北朝鮮に大きい力を駆使できる点とは、貿易と援助とエネルギーだ。1991年のソ連崩壊によって、北朝鮮の最大の後ろ盾はほとんど一夜にして消滅してしまった。

北朝鮮の石油の約8割は中国からだ。中国への石炭輸出は北朝鮮にとって極めて重要だったが、昨年7月の弾道ミサイル発射に対する追加制裁で石炭輸出が禁止された。中国は制裁を履行したため、翌年の北朝鮮経済は急激に後退した。

北朝鮮の輸出の大部分は中国そのもの、あるいは中国を経由して第三国へ行く。援助の約9割は中国からだ。航空便の往復があり、鉄道がつながっている外国も、中国のみだ。

2000年代半ばまでは、中国の銀行のみが北朝鮮の銀行と取り引きをしていた。主にマカオの口座を通じて。しかし、その口座の資金も相次ぐ制裁で凍結された。

それでもなお、国連制裁が新たに対象にしているのは、今でも北朝鮮企業や仲介業者と間接的に取引を続けている中国の金融機関だ。

中国が北朝鮮に対して使える最大の「てこ」は、石油だと思われている。中国が北朝鮮に石油を輸出しなくなれば、即効的で劇的な経済効果をもたらす。

数年前にほんの数日間、北朝鮮に石油を供給するパイプラインが閉められたことがある。それも北朝鮮が核実験を実施した頃だった。つまり中国は過去には、石油をてこに、影響力を発揮したこともあるのだ。

しかし一時的な中断ではなく、全面的な供給停止となると、話は違う。石油供給が全面停止となれば、体制そのものの危機、もしくは崩壊のきっかけになるというのが大方の見方だ。ただでさえ北朝鮮経済はぎりぎりかろうじて回っているというだけの状態だ。石油は最後のライフラインで、それを取り上げるのは致命的なことになり得る。

ことはそれほど単純ではないという反論にも、かなり強力な材料はある。北朝鮮は国内総生産(GDP)の25%を軍事費に振り向けている。石油備蓄は数カ月はもつだろう。そして数カ月あれば、誰もが恐れる南への、つまり韓国の人口密集地域に対する壊滅的な攻撃を仕掛けることができる。

そのような真似は、北朝鮮にとって自殺行為だ。しかしほかにも例はあまたにあり、そうした例から世界は学んできた。扱いが一番大変なのは、自殺するつもりの相手なのだ。

しかも、崩壊する北朝鮮はほかの面でもこちらの意のままにはならない。難民は国境を泳いで越えて中国に流入するだろう。力の真空が出現し、その真空を米国や同盟国が占領しようとするかもしれない。そうなれば、中国にとって最大の悪夢だ。

つまり、一見すると中国は北朝鮮に対して様々な「てこ」や影響力を持つかのように見えるが、中朝関係で何より特筆すべきは、中国がいかに無力かという点だ。自信にあふれて強大に見える再生・中国をどう扱うべきか、世界中が苦悩しているこの時代、隣の飢えた小国が毎日のように中国がいかに非力かをあらわにする。中国は実はそれほど大したことはないのだと、残酷なまでに見せつけているのだ。


<筆者について>

ケリー・ブラウン教授は、キングス・コレッジ・ロンドンのラウ中国研究所所長。

本稿はBBCが外部機関の専門家に解説記事を依頼したもの。

(英語記事 How much leverage does China have over North Korea?