前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授)

 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。
8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同)
8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同)
 トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。

 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。

 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。