柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長)

 北朝鮮が6度目の核実験をした。しかも今度は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭に載せる水爆だという。私は率直に言って、このことに驚かなかった。それは北朝鮮の既定路線であって、やるかやらないかではなく、いつやるかという問題だと思っていたからだ。北朝鮮はアメリカと対等になるために、アメリカ本土を脅かす核ミサイルを持たなければならないと思っている。目的は戦争ではない。戦争になれば負けることは分かりきっている。アメリカと対等な立場で交渉できるようにするためだ。

 あえて「今なぜか」と言えば、北朝鮮経済の生命線である石油の禁輸という制裁に中国が同調しないという「読み」があったからであり、あるいは石油禁輸が不可避とすれば、それを発動されないうちに核を完成させようという狙いがあったのだろう。

 深刻なのは、アメリカの圧力外交が効果をあげていないことが明らかになったことだ。中国が石油を止めないとすると、体制を脅かす「決め手」になるような制裁はない。そうすると、実力で核を排除する以外にない。少なくとも、空母を浮かべ、B1爆撃機を見せる程度ではなく、戦争すれすれの脅しをしなければならない。
8月8日、米ニュージャージー州のゴルフ施設で北朝鮮情勢について話すトランプ大統領(ロイター=共同)
8月8日、米ニュージャージー州のゴルフ施設で北朝鮮情勢について話すトランプ大統領(ロイター=共同)
 それでも、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないと誰もが知っている。つまり、武力で威嚇するやり方では、核開発は止まらないということが明らかになったのだ。

 制裁や威嚇で止まらなければ、物理的に核を排除するしかない。そのためには、政権を排除することが最も確実だ。それは「大量破壊兵器を隠し持っていた」と決めつけてイラクのサダム・フセインを打倒したときと同じ論理である。

 今回は、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったイラクよりも、はるかに大義名分がある。そして、北朝鮮に武力行使した場合、水爆を積んだICBMが完成する前にやらなければ、核の反撃にあうかもしれない。アメリカにとっても「やるなら今だ」という計算が成り立つ。韓国は、自分の同意なしに戦争することに反対だと明確に述べている。中国には、戦争になれば北朝鮮に加勢するという論調もある。さて、日本はどうするのだろう。

 1960年に改定された日米安保条約の交換公文では、日本の基地からの直接出撃は事前協議の対象となる。ベトナム戦争の時のように「米軍機が飛び立ったのは通常の移動であって、その時点で北朝鮮の核施設を爆撃する予定はなかったと承知している」という話では済まない。日本の基地への反撃があり得るからだ。

 だが私は、実際にはそのシナリオはないだろうと思っている。戦争は、早期に目的を達成して終結する見通しと、戦争終結後に訪れる状況が戦争前よりも良くなっているという展望がなければ始められないからだ。

 核開発を止められず、戦争のシナリオがないとすると、選択肢は「交渉」しか残っていない。交渉の条件は、北朝鮮が主張する「核保有国であること」を認めるか、少なくとも「棚上げ」することにならざるを得ない。交渉に移行する最大の障害は、米国内と日韓両国の世論だ。トランプは、自らの強硬路線の失敗を認めることになるのだから、どうやって「名誉ある転進」のように見せるかに腐心することになる。