「核戦争の共通認識」がない北朝鮮に米国が取るべき道は対話しかない

『中岡望』

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中岡望(東洋英和女学院大学大学院客員教授)

 北朝鮮の核兵器と大陸間弾道弾の開発で朝鮮半島の緊張が高まっている。北朝鮮は挑発的で過激な発言を繰り返し、トランプ大統領も激しい言葉で応じている。アメリカは北朝鮮に対する経済政策強化を進めることで北朝鮮に核兵器開発を断念するよう圧力をかけ続けている。

 しかし、誰も経済制裁の強化で北朝鮮が核兵器開発を断念するとは思っていないのではないだろうか。最悪の場合、事態はさらに悪化する可能性もある。こうした時こそ単に軍事的な分析だけでなく、冷静な判断が必要となるだろう。

 戦争は誰のメリットにもならない。北朝鮮とアメリカの軍事力、経済力の格差は歴然で、どう転んでも北朝鮮に勝ち目はない。「螳螂(とうろう)の斧」である。その激しい口調とは裏腹に、北朝鮮にはアメリカを攻撃する能力も意味も存在しない。過剰に北朝鮮の脅威を強調するのは賢明な対応とはいえない。

 実際に軍事衝突が始まれば、北朝鮮が目指す体制維持は難しくなるだろう。韓国と中国にも戦火は拡大するかもしれないし、北朝鮮の体制崩壊で中国と韓国に大量の難民が押しかけてくるのも間違いない。日本にも影響は及ぶだろう。またアメリカにとっても何のメリットもない。「核クラブ」による核兵器の独占を維持できたとしても、その代価はあまりにも大きい。
北朝鮮の水爆実験の成功を報じる街頭テレビ=3日、東京都(佐藤徳昭撮影)
 では、なぜ北朝鮮は強引に核兵器の開発を進め、アメリカを挑発し続けるのだろうか。北朝鮮は非合理的な判断をする可能性はあるのだろうか。そこまでのリスクを冒して、北朝鮮は何を得ようとしているのだろうか。狙いは単純である。すべては「体制維持」にある。「核保有国」として認知されることで、それを実現しようとしているのである。

 さらにアメリカを直接交渉の場に引き出したいのである。もうひとつ加えれば、経済制裁は効果がないことを示そうとしているのだろう。しかし、アメリカは北朝鮮を「核保有国」として容認することはできないし、直接交渉する準備もできていない。

 まず指摘しておかなければならないのは、朝鮮戦争はまだ終わっていないということである。現在は休戦状態だ。アメリカは朝鮮戦争が始まったときから現在に至るまで北朝鮮に対する制裁を続けている。両国の間には正式な外交チャンネルが存在していない。「ニューヨーク・チャンネル」と呼ばれる国連を舞台にする細いチャンネルがあったが、オバマ政権の最後の年にそのチャンネルも閉ざされている。両国はお互いの真意を知る機会さえ持つことができない状況が続いている。

 一番怖いのは、対話のない中でお互いの意思を誤解し、計算間違いを犯すことだ。アメリカも北朝鮮に関する明確な情報を持っていない。誤解と計算違いのリスクは北朝鮮だけでなく、アメリカにもある。
北朝鮮を非核化するために必要なこと

 冷戦の時でさえ米ソの間に外交チャンネルは存在し、お互いの意思を確認し合うことができた。また「相互確証破壊」という共通した考えを持ち、核戦争ではどちらの国も勝利を収めることはできないという共通認識が存在した。だが、北朝鮮とアメリカの間には、共通認識は何も存在しない状況にある。

 北朝鮮の挑発的な発言は今に始まったことではない。それに対してアメリカは比較的自制的な対応を取ってきた。オバマ政権は「戦略的忍耐(strategic patience)」を取り、直接的にコミットすることを避けてきた。付け加えれば、オバマ政権は成功はしなかったが核軍縮を目指してきた。

 だが、トランプ大統領はそうした自制心を投げ捨て、極めて厳しい対応を取り始める。核開発予算の増額も求めている。北朝鮮に対しては「すべてのオプションはテーブルの上にある」と、「対話」と同時に「軍事的攻撃」も選択肢にあると発言している。

 3日、トランプ大統領は記者団に「北朝鮮を攻撃する計画はあるのか」と聞かれ、「検討する(We’ll see)」と答えている。こうしたメッセージが北朝鮮にどう伝わり、どう受け止められているか分からないが、北朝鮮に大きな脅威を与えていることは間違いないだろう。
記者団に対応するドナルド・トランプ米大統領=10日、米ニュージャージー州(AP=共同)
 さらに混迷を深めているのは、トランプ政権内で明確な北朝鮮政策がみられないことだ。トランプ大統領とは違い、ティラーソン国務長官やマティス国防長官は対話の重要性を訴えている。9月3日のNBCニュースは、ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮ウオッチサイト「38North」が8月に「もしアメリカが北朝鮮に対する敵対政策と核の脅威を止めるなら、核兵器とミサイル開発を中止する準備がある」と分析していると伝えている。だが、トランプ政権はそうした兆候や分析を無視している。

 スタンフォード大学教授のエイミー・ゼガート氏は、『アトランティック』誌に寄稿した記事(How not to Threaten North Korea)で「アメリカの北朝鮮政策は失敗し続けている。トランプ政権になって対立のリスクは劇的に高まった」と指摘している。その中で注目されるのは、トランプ大統領は自らの情緒的な発言でアメリカに対する「信頼性」を損なっていると指摘していることだ。「外交政策では、言葉は安っぽいものではない。危険性を孕(はら)むものである」とも書いている。危機的な状況の時こそ、冷静な発言と判断が必要となる。

 北朝鮮問題を解決できるのはアメリカだけである。北朝鮮の対米不信は根深い。声高に制裁強化を主張するだけでは問題解決にはならない。また歴史的に見て、経済制裁が成功した例はない。北朝鮮に対する「太陽政策」も「北風政策」もあまり効果はなかった。太陽政策は単に北朝鮮に時間を与えただけではないかとの批判もある。しかし、北風政策は間違いなく危機を深刻なものにするだろう。

 目標は明確である。朝鮮半島の非核化である。そのために必要なことは、経済制裁強化ではなく、まずアメリカが北朝鮮との間に対話のチャンネルを構築する努力を行うことであり、高官レベルでの直接対話の可能性を探ることである。それによって初めて信頼関係を取り戻せるのだ。

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