「日本核武装」が台頭するのは、これが初めてではない。

 少し古い話だが、北朝鮮が枠組み合意を破棄して核開発を再開した直後の2003年1月、米紙ワシントン・ポストに、「ジャパン・カード」という見出しで、「日本の核武装が北朝鮮への対抗手段」というコラムが掲載された。筆者は保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏だった。コラムは「米国が北朝鮮への武力行使に消極的である理由のひとつは報復を恐れているため」と指摘。

 「北朝鮮を外交的、経済的に孤立させようという手段も、韓国、中国が協力するかわからない状況では、効果を期待できない」と、当時のブッシュ政権(共和党、子)の政策を批判した。そのうえで、「こういう苦しい状況の中では、日本に自ら核武装させるか、米の核ミサイルを日本に提供して北朝鮮と、それを支援する中国に対抗させることこそ、唯一の有効なカードになり得る」と主張した。

 この議論が日本国内にどの程度の影響を与えたかは明らかではないが、その後、2006年には、日米の政府間で、表沙汰にこそされなかったが、議論されている。しかも、そのときは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相が、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)に直接、提起したという。

 ブッシュ政権2期目で国務長官を務めたライス氏の回顧録によると、2006年10月に訪日、官邸を表敬した時のこと。

 安倍首相は「日本が核開発に手をつけるという選択肢は絶対にあり得ない」としながらも、「それを望む声も多いのは事実だし、しかも、その声は次第に大きくなっている」と日本国内の空気を伝えたという。

安倍晋三首相との会談に臨むコンドリーザ・ライス米国務長官=2006年10月19日、首相官邸
安倍晋三首相との会談に臨むコンドリーザ・ライス
米国務長官=2006年10月19日、首相官邸
 回想録の中でのやりとりはそれだけで、ライス長官がどう答えたのかなどは明らかではないが、ライス女史は、「日本でそういう声があがることは意味がある。北の核開発を野放しにすれば大変なことになると中国も思い知るだろう」とコメントしている(『ライス回顧録』集英社)。

 そう、中国なのだ、日本の核武装論をもっとも気にするのは。中国が戦後ずっと恐れてきたのは、最近こそあまり口にしなくなったが、“日本軍国主義”の、復活だ。日本からみれば、軍国主義復活など、とんだ取り越し苦労だが、実のところ、「強い日本」を中国はもっとも恐れている。

 かつて、日中国交正常化前、中国が日米安保条約に必ずしも反対しなかったのは、この条約が存在することによって、日本が防衛費を抑制、軍事大国になることを防ぐことができると考えたからだ。“ビンのふた論”である。