ライス氏は、この北東アジアの文化を理解していない。ライス氏の寄稿とニューヨーク・タイムズの記事はかなり的外れと私には思える。「北の核容認論」は北朝鮮の歴史と文化を理解せず、アジアの現実もわからない米国人特有のアジア観である。「アジアがどうなろうと関係ない。あの人たちはおかしな人たちだから」との蔑視感情が根底にある。
国連本部で握手する潘基文国連事務総長とスーザン・ライス米国連大使=2009年1月26日、米ニューヨーク(UPI=共同)
国連本部で握手する潘基文国連事務総長とスーザン・ライス米国連大使=2009年1月26日、米ニューヨーク(UPI=共同)
 オリエンタリズムは、故エドワード・サイード・コロンビア大教授が、欧米人のイスラムやアジアへの根深い蔑視感情をえぐり出した「書籍」のタイトルだが、欧米人の「アジア、イスラム蔑視」を意味する用語として使われている。サイード教授は、パレスチナ移民の息子で世界的な言語学者だった。

 なぜ北朝鮮は核開発を始め、金正恩朝鮮労働党委員長は核とミサイル実験を急ぐのか。話は冷戦崩壊前後に戻る。東欧社会主義国が崩壊する中で、旧ソ連は韓国との国交正常化を決めた。怒った北朝鮮は、新型兵器の開発を通告した。

 金日成主席と金正日総書記は北朝鮮が崩壊し、金ファミリーが指導者として追放される事態を最も恐れた。当時の軍事用石油は60万トンしかなく、戦争能力はない。米韓が軍事攻撃すれば、たちまち崩壊する。それを阻止する手だてとして核兵器保有に行き着いた。核開発にはミサイル開発が不可欠だ。

 金総書記は一時「米朝合意」で核放棄を覚悟したが、軍の反発で方針を変更した。2001年頃といわれる。核とミサイルを持たないと崩壊させられるとの戦略と「信念」で指導者と軍幹部は一致した。だから、祖父と父、軍幹部が決定した方針を金正恩委員長は自らの一存で放棄できない。

 これは儒教社会の北朝鮮では誰も疑わない価値観である。ライス前大使らは、北朝鮮が儒教文化の国家である事実を理解できていない。北朝鮮は対話や条件提示で核実験を止める文化でも体制でもない、とわかっていない。金正恩委員長は核とミサイルが完成するまで実験を放棄できないのだ。

 儒教国家では「正統性」と「大義名分」が最大の価値観である。米国が核保有を認めれば、北朝鮮は国際社会から正統性を得たことになる。北朝鮮では核で譲歩することはないという空気が広がっている。北朝鮮国民は、金委員長は国際社会から正統性を認められた偉大な指導者と受け止める。