2017年09月11日 19:19 公開

アンソニー・ザーチャー北米担当記者

ドナルド・トランプ氏と共和党議員の衝突が、山場を迎えるかもしれない。

これが、政党の結びつきから自由になった、フリーランス大統領の始まりとなる可能性がある。トランプ氏の支持者が昨年、トランプ氏に票を投じた時に期待した、交渉司令官のような存在だ。

あるいは、劇的ではあったものの、共和党主流派がアウトサイダーのトランプ陣営と取引したことによってできた今の与党の体制が直面した困難の単なる一つになるかもしれない。

舞台は出来上がっていた

何カ月もの間、共和党議員と大統領執務室の主との間には、不協和音がずっと続いていた。大統領は、上院共和党がオバマケア撤廃法案をいかなる形にせよ通さなかったことにいら立っていた。トランプ氏は大統領選の選挙活動中に、廃案は「簡単だ」と保証していたのだ。

トランプ大統領による激怒ツイートや雑談の標的の一人、マコネル上院院内総務は、トランプ氏はワシントンの政治がどう機能するのか理解していないと不満をもらした。

明らかな不和にもかかわらず、ホワイトハウスと議会指導部は主に同じ戦術を基に動いていた。医療制度改革を完成させるために、不成功に終わった同じ戦略に共に取り組んでいたのだ。大統領はホワイトハウスの計画を過去最高として売り込んだ。ホワイトハウスの庭での激例会に値するほどだった。上院に脇に押しよけられるまではだが。その後、上院の計画は非常に順調に行っているとしていたが、それも民主党員と一握りの頑として意見を変えない共和党員によって阻止されるまでのことだった。

以降、大統領と共和党指導部は税制改革で協力している。議員たちが議会で汗を流している間、大統領は議会の成果を宣伝するために遊説に出かけている 。計画は、債務上限を引き上げ(米政府が新規国債を発行できるようにし)、2017年最後の数カ月間は議会が大がかりな税制改革法案に集中できるよう、予算の期限が切れる9月末までに決議するものだった。

トランプ氏が計画変更

ハリケーン「ハービー」の被害救済法案に関して、議会や自身のホワイトハウス内で、民主党議員と共和党指導者のどちら側に付くかを決める時、大統領は民主党側に付いた。

これは……意外だった。

上院の共和党議員は、被害救済資金を債務上限の1年以上の延長とセットにしたいと考えていた。2018年の中間選挙が終わるまで、民主党が持っている交渉力の重要な一部を奪うためにだ。

下院共和党の強硬派は、いかなる債務上限に関連した措置にも政府支出削減を結び付けようと熱心だったため、「ハービー法案」には債務上限に関するものを入れたくなかった。ポール・ライアン下院議長は6日朝、ハリケーン被害救済資金の「クリーン」版(債務上限と抱き合わせてはいないもの)をすでに議会を通じて用意していた。

「ハリケーン被災者対策を待っている国民のため、彼らが置き去りにされないようにしなくてはいけない時に、債務上限を政治的取引の材料にしたいなんてばかげているし、恥ずべきことだと思う」とライアン氏は6日朝、民主党議員らについて記者会見でこう述べた。

その後ライアン氏は大統領執務室へ向かい、大統領、スティーブ・ムニューシン財務長官、マコネル氏、さらに2人の民主党議会指導者、チャック・シューマー上院議員とナンシー・ペロシ下院議員と共に協議した。

そこでは、両政党がハリケーン救援金と債務上限に関する合意を打ち出すはずだった。代わりにそこでは、共和党議員が打ちのめされた。

共和党は当初、1年半の上限延長を提案した。民主党は3カ月と返して抵抗し、さらに予算交渉が続く間は、政府運営資金を確保 する付帯決議を付けると提案した。

共和党は、半年間の延長でこれに対抗したが、民主党は揺るがなかった。

そこで大統領が介入し、民主党の提案を受け入れた。これを「取引成立」と呼ぶのは不適切だろう。間を取ったという瞬間ではなく、大統領がその政敵から、最初で最後の提案を受け入れ、仲間の共和党を悔しがらせたのだ。

ワシントン政治の住人たちは、一体何が起こったのか、ぼうぜんとなった。

怒った共和党議員たち

議場の共和党議員たちの反応は早かった。

トランプ氏をしばしば批判する共和党のベン・サス上院議員(ネブラスカ州選出)は、「ペロシ氏とシューマー氏、トランプ氏の合意は悪い」とツイートした。

共和党のトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州選出)は、大統領との交渉において民主党が優位に立った可能性があると話した。

ティリス氏は、「政府の短期資金への我慢は限界に来ている」とし、「ひどい。財政上の背任行為だ。終わらせなければ」と話した。

共和党員たちは匿名ではもっとあからさまだ。

共和党の側近の1人は政治ニュースサイト「ポリティコ」に対し、「米国の大統領はナンシー・ペロシ氏とチャック・シューマー氏に弾の入った銃を渡した」と話した。

別の共和党員はニュースサイト「アクシオス」に対し、大統領の行動は「民主党員に武器を全て与えて、共和党全体を人質に取るよう促しているようなものだ」と語った。

事態の真相知ろうと

大統領の意外な行動は、すでに緊迫していた共和党議員との関係を悪化させた。大統領執務室での会談の直後、議員昼食会の閉じた扉の向こうで民主党議員が拍手していた音が漏れ聞こえたが、彼らは予期していなかった勝利で活気づいている。

大統領は何を考えていたのだろうか?

突然の立腹マコネル氏とライアン氏への不満が爆発して大統領がその場で決めた、という可能性は常にありえる話だ。自分を傷つけた共和党議員を傷つけ、最終的には大統領である自分が上なのだということを見せつける以外、今回の動きの背後に大きな展望は持っていなかったかもしれない。

もしそうであるなら、目的は達成した。怒りは発散され、共和党指導者とスタッフたちにとって、振り出しに戻った。

戦略的な手段。ホワイトハウスでの会談の後、大統領側近は、最終的に共和党員の目標達成を支援するものとなるよう、この決定を巧みな政治的計算として描こうとしている。

ある人物は、トランプ氏が税制改革に向けた「準備をした」のだと述べた。トランプ氏は、政府機関の一時停止や債務不履行といった不安がない状態で、議会と交渉できる状態にしたかったのだ。

もしかしたら、複数の破壊的なハリケーンで国民が危機にひんしているなか、大統領は党派心を脇へ押しやったのかもしれない。マコネル氏とライアン氏は、トランプ氏がなぜ公然と2人を切り落としたのかとの疑問に直面した際に、このように説明した。

そう、大統領は民主党を勝たせはしたが、それは手続きの一つであり政策ではないのだ。ほとんどの米国人は、債務上限が何かなど見当もつかないだろう。なぜ議会が毎年のようにそのことについて議論しているのかなど、なおさら理解できないだろう。

トランプ氏が今後数カ月の間に保守的な予算を通して税制改革を遂行できたなら、トランプ氏の汚名は晴れるだろう。

群れから離れた大統領。しかしもしこれが、単なる発作的な激怒だったり、戦術として共和党議員の意見に同意しなかったりした、という以上の話だったら? もし、宣伝材料となるような立法面での業績を自分に与えてくれるだけの能力が自分の政党にないと不満に思った大統領が、民主党議員に初めて真剣なアプローチをしたのだったら?

共和党議員とは異なり、トランプ氏にとって債務上限を引き上げるのに明白な問題はない。同氏が提案した予算は極端に削減されてはいるが、財政支出は同氏が大統領選の選挙活動中にこだわった問題ではなかった。トランプ氏にとって一番大切な減税案への支援を民主党議員から得るために、債務上限を譲らなければならないのなら、そうすれば良い。

ホワイトハウスでの会談の数時間後、トランプ氏は自身の税制改革案について演説するためにエアフォース・ワンでノースダコタへ向かった。これに同行したのは、来年の改選で最も危うい民主党議員の1人であり上院議員1年目のハイディ・ハイトカンプ議員だった。

トランプ氏は同議員を非難する代わりに「良い女性」と呼び、ノースダコタ州選出の共和党議員ら と共にステージ上に招いた。トランプ氏は、税制改革をハイトカンプ議員に手助けしてもらいたいと考えている。たとえそれが、上院での共和党議員の過半数支配を来年も維持するというマコネル氏の計画を複雑にする可能性があってもだ。

トランプ氏はまた、来年の中間選挙での共和党の勝利は確実というには程遠く、自分と議会との間にある程度の距離を置いた方が賢明と結論づけたのかもしれない。自身が再選に向けて出馬する3年後には、トランプ氏の一番の望みは両党、つまり民主党と共和党に対抗するということかもしれない。独立しているという経歴を維持したいのであれば。

ビル・クリントン元大統領も1996年の選挙で再選を果たした際に取った戦略だ。事実上、自身の政党が共和党と戦うよう仕向けたのだ。クリントン氏の「トライアンギュレーション」(党派対立から距離を置く第3の立場を取る戦略)はしかしながら、自身の政党が中間選挙で大敗を収めた後の話で、トランプ氏のように選挙の前ではない。

とは言うものの、トランプ氏が普通の政治ルールに沿ったことなどこれまでなかった。

うまくいくだろうか?

トランプ氏の唯一の目的が、共和党議員に砂をかけて侮辱するだけだったなら、目的は達せられた。共和党指導者らは砂を払い、頭を振って、激情の大統領とこれまで通り協力して行こうとするだろう。

ライアン氏は実のところ、トランプ氏と7日夜、夕食の予定が入っている(注:翻訳記事の時点で夕食は実際に開かれている)。来週までには、取引成立ための「旋回」は、相次ぐツイートや思いつきの発言で崩れ去って行った、よく知られた数え切れないほどの「旋回」と一緒に過去のものになっているかもしない。

大統領が、共和党議員のみならず民主党議員とも協力する、両党による与党連立というより広い展望を持っていれば、それはほぼ超人的な功績になるだろう。トランプ氏を忌み嫌う人々を支持層に持つ民主党議員にとって、トランプ氏に重要な勝利を与えるのは、それが何であれ気が進まないだろう。

ジョージ・W・ブッシュ元大統領は2002年、包括的な教育改革を通過させるために民主党の実力者、故テッド・ケネディ 上院議員と協力することができた。しかし2年間の選挙活動でのレトリックや7カ月間の対立的な与党政策からは、今日、そのような超党派的な交渉の成立を想像するのは難しい。

大統領は、シャーロッツビルでの衝突の後、一部の白人国家主義者を称賛し、ほんの数日前には、幼少時に親に連れられて米国に不法入国人たちを救済する制度、DACAの廃止を打ち出した。そのような大統領を受け入れるのは、民主党議員にとって簡単ではないだろう。

自称「世界最強の交渉人」のトランプ氏は、単に試してみたいだけなのかもしれない。うまくやれれば、その名に恥じない功績となるだろう。

(英語記事 Trump and Democrats deal: What was the president thinking?