超高齢社会が迫るなか、医療・介護現場の人手不足は深刻で、あぶれだした高齢者が施設ではなく在宅での「老老介護」を選ぶしかなくなる。そうしたなかで、認知症の行方不明者は年間1万5000人を超え、かつてないペースで激増しているのだ。

「行方が分からなくなるのには“本人なりの理由がある”ことが多い」と指摘するのは日本地域ケア協会・梅澤宗一郎代表だ。

「たとえば女性の場合、雨の日にいなくなることが多い。それは認知症を発症する前、健康だった時の習慣的な記憶と関係があるのではないかと考えられています。雨が降ったら『洗濯物を取り込むために急いで帰る』あるいは『小学校まで傘を持って子供を迎えに行かなければいけない』といった不安に駆られていた。それを“思い出している”のではないかということです。

 他にも、寒くて閉じこもりがちな冬から春になると体が外出を求める。また年中行事としてお墓参りをしていた人はそうした記憶に突き動かされるのか、お彼岸、お盆に先祖の墓を探しては、とんでもない場所まで行ってから自分がどこにいるのかわからなくなる、ということもあります」

 だからこそ、認知症患者の徘徊行動に対して、「頭ごなしに否定するのは逆効果」と梅澤氏は続ける。

「日の出前から出勤するモーレツサラリーマンだった方に多いのですが、真夜中に“会社に行く”と言い出す。そういう時は、ただ止めるのではなく、“行ってらっしゃい。でも、その前にご飯食べないと”といったふうに一旦は受け止め、それから家の中に止める理由を言うほうが効果的です」

 姿が見えないと気づいた時には「1時間以内」がデッドラインになるという。『認知症の人と家族の会』の阿部佳世・事務局長はこう語る。

「初動が重要です。1時間以内に捜索願を出せば同じ町内で発見される可能性が高まる。“周囲に迷惑をかけては……”と遠慮しがちですが、そうしているうちに1時間以上経過すると、町内を出てしまい、顔を知る人物もいなくなる。途端に発見・保護の確率が下がります」
徘徊者役の男性(右)に声を掛ける見守り訓練=2016年5月、枚方市
徘徊者役の男性(右)に声を掛ける見守り訓練=2016年5月、枚方市
 北海道釧路市や福岡県大牟田市では「SOSネットワーク」という新たな取り組みも始まっている。行方不明者の届け出があれば、警察だけでなく、自治体や地元のFM局が連携して情報を発信し、早期発見につなげる取り組みだ。

 ただこうした取り組みは緒に就いたばかりで、大都市部を中心にした爆発的な行方不明者の増加をカバーできる態勢には程遠い。

「施設から在宅へ」という国の介護政策の大きな潮流の中で、孤独に認知症高齢者と向き合う家族の負担も増える。それはさらなる「行方不明者増」にもつながる。介護施設情報誌「あいらいふ」編集長の佐藤恒伯氏は「独居老人」の増加も見逃せないと指摘する。

「10年に500万人だった独り暮らしの高齢者は35年には1.5倍の760万人になるといわれています。独居老人が認知症で徘徊を始めたら、行方がわからなくなっても行方不明になっていることすら知られない。そうして孤独に見知らぬ土地で死んでいく悲劇を今のところ防ぐ手立ては存在しません」

“大量行方不明社会”の到来は、すぐそこに迫っている。

関連記事