小山朝子(介護ジャーナリスト、介護福祉士)

 老老介護とは一般に65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護することを指す。しかし、私が在宅介護の現場で遭遇する高齢者は75歳以上の後期高齢者が多いようだ。

 75歳を過ぎると人は介護が必要になる割合が高くなる。厚生労働省の「介護保険事業状況報告」(2012年度)によると、65歳から74歳で「要支援・要介護」の認定を受けた人は4・4%であるのに対し、75歳以上の「後期高齢者」では31・4%だった。ちなみに、日本老年学会などは今年1月、現在は65歳以上と定義されている高齢者を75歳以上に見直すことを求める提言を発表した。

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 ところで、老老介護のなかでも、特に深刻なのが認知症の人が認知症の人を介護する「認認介護」である。公益社団法人「認知症の人と家族の会」のホームページには、80歳前後の認知症高齢者はおよそ20%であることから、80歳前後の夫婦ではおよそ11組に1組が認認介護となる可能性があると記されている。

 ある番組で老老介護について取り上げることになり、この番組のスタッフに私が認認介護の事例について紹介したところ、「ニンニンって響きだけを聞くと、かわいい感じなんっすけどね」と話していたが、現場は深刻な状況である。

 認知症の妻を介護する認知症の夫が妻を受診させようと病院に同行するが、夫が院内で迷ってしまい、結果的に受診できずに帰ってきたという話も現場では耳にする。一方、認知症の場合、夏なのに冬服を着込んだり、クーラーをつけずに高温の部屋でじっとしているといった事態が起きる。高齢になると体温の調節機能が落ちて暑さを自覚しづらくなるが、そこに認知症の症状のひとつである「見当識障害」(時間や月日、季節感が薄れる症状がある)が加わり、熱中症になるリスクが高まる。
 
 認認介護のお宅を訪問しているあるヘルパーは「冷蔵庫には賞味期限を過ぎた食品でいっぱいになっている。こちらが勝手に処分することもできないですし…」と話していたが、このように第三者が介入しているケースは事件に繋がりにくいこともあり「救われているケース」だといえよう。問題なのは、第三者が介入していない場合である。

 私は介護分野を専門とするジャーナリストとして長年にわたり現場の取材を続けてきた。その間執筆した記事のなかで印象深い事件のひとつが2005年に埼玉県富士見市で発覚した「リフォーム詐欺事件」である。

 この事件の被害者は当時80歳と78歳だった姉妹である。事件に関わった市の消費生活相談員の話では、「姉妹はともに認知症だった。寡黙な妹と社交的な姉、ともに10分前のことは忘れてしまうレベルだった」という。 

 この事件に関わった悪質リフォーム業者と姉妹との間で交わされた契約書によると、事件が発覚するまでの4年間で姉妹宅のリフォーム工事に関わった業者は19社あり、姉妹が請求された金額は約4800万円(2005年7月までの判明分)に上った。姉妹は被害に遭った事実も把握できず、近隣の住民が気づいて市に相談しなければ、この事件は明らかにはならなかった。

 姉妹が介護保険の申請を行い、介護保険のサービスを手配・調整する介護支援専門員(ケアマネジャー)やヘルパーなどの介護スタッフが出入りすれば、もっと早く事件が表面化し、被害総額もここまで膨らむことはなかったのではないだろうか。