古川雅子(ジャーナリスト)

 「妻より先に死ぬわけにはいかない」。そう言い続けていた、俳優の砂川啓介さんが7月11日、入院先の病院で天国に旅立った。80歳だった。

 妻はアニメ「ドラえもん」でドラえもんの声などを務めた女優の大山のぶ代さん。砂川さんは妻の認知症を公表し、献身的に介護を続けてきた。2008年に大山さんが脳梗塞で倒れてから10年弱。さらには12年秋、アルツハイマー型認知症と診断されてから5年。自宅介護で重ねてきた時間は、実に長い。
大山のぶ代、砂川啓介さん夫妻(2007年6月撮影)
大山のぶ代、砂川啓介さん夫妻(2007年6月撮影)
 6月に厚労省が発表した国民生活基礎調査によれば、介護をする人とされる人が同居する世帯のうち、介護を受ける側も担う側もともに65歳以上の「老老介護」世帯の割合が過去最高の54%に達した。75歳以上同士の「超老老介護」世帯も30・2%と、初めて3割を超えた。砂川さんと大山さん夫婦は、まさにこの「超老老介護」世帯であった。

 介護をする側である砂川さん自身も、13年には胃がんの摘出手術を受け、その他にも帯状疱疹(ほうしん)、肺気腫とさまざまな病気を患っていた。介護によるストレスも関係があると、医師からは指摘されていたという。70歳を超えてからの砂川さんは、自らの老いを突きつけられながらも妻の介護に明け暮れる日々だった。だからこそ、砂川さんは「老老介護」を自認していた。自著の『娘になった妻へ 大山のぶ代「認知症」介護日記』には、こんな記述がある。

〈介護をする側の僕の体調だって万全じゃない。それなのに、介護をする側は、「頑張らなきゃ」「自分がなんとかしなきゃ」と、背負いこんでしまう〉

 マスコミは、昨年4月に砂川さんに尿管がんが発覚して共倒れにならぬよう妻を介護施設に入居させたことを「おしどり夫婦を襲った老老介護の悲劇」として伝えていた。80近い齢(よわい)を重ねた男性が愛妻のために自宅介護を続けてきた「美談」と、介護する側が先に倒れるかもしれぬ「悲劇」の予感とが合わさり、そこに「老老介護」というわかりやすいラベルを貼ってニュースが大量生産されて…。そんな構図が垣間見えた。