調査概要には夫婦間での介護する人とされる人の年齢階層を組み合わせたデータは掲載されていないが、介護する夫の83・1%は60歳以上、75歳以上も半数(50・2%)を超えている。また、被介護者のほうはさらに高齢化が進み、65歳以上は89・2%、75歳以上が62・9%に達していることからしても、事態の深刻さは容易に把握することができよう。「老老介護」はもはや一過性のもではなく、さらに加速するように思われる。「人生90年時代」が現実化し、加えて少子化や非婚化の進展によって、家族形態が大きく変容しているからだ。いまや介護は夫婦間が主流となり、その後、ひとりになった親を高齢期に達した息子や娘らが介護するという関係が一般化する。

 「老老介護」はこれまでの介護のカタチを激変させる。「家ではコーヒー一杯入れたことがなかった」男性が、介護どころか炊事・洗濯・掃除・買い物など生活全般の困難を抱えながらの介護を始める。これまで何も問題なくこなしてきたに違いない女性の介護者も、年々の体力劣化によって家事にも支障が出てくる。自らも要支援・要介護認定を受けながら、ヘルパーやデイサービス等の介護サービスを利用しつつ介護の役割を引き受けている高齢者も何ら珍しくなくなっている。

 こうした「ながら」の介護は「老老介護」に限らない。先述した半世紀前の介護者の専業主婦モデルでは、家族の介護が始まれば介護に専念すると想定されてきたが、それはもう過去の話である。いまあるのは、働きながら、子育てしながら、通いながら、体調不調を抱えながら、就活・婚活しながら、介護する配偶者や子供たちだ。

岩手県奥州市で開かれたダブルケアサロンの参加者=2016年8月
 では、働きながら介護する人はどれぐらいいるのか。直近の就業構造基本調査(平成24年)という総務省のデータでは291万人。介護者総数(557万人)の半数を超えている。60歳未満という生産年齢層の介護者の中で、働いている人は男性で8割を超え、女性でも6割を超えている。育児と介護を担う「ダブルケアラー」は25万人(男性8万人、女性17万人)ということを内閣府が明らかにしている。

 「認知症に克つ」(週刊エコノミスト)「認知症の常識が変わった」(文藝春秋)「家族の介護」(週刊ダイヤモンド)-総合誌でも経済誌でも介護の大特集だ。報道からドラマ、バラエティーまで介護がメディアを席巻し、また時の政権が「介護離職ゼロ」(2015年)を成長戦略の三本の矢の一つに挙げるなど世間を驚かせたが、介護問題をめぐっての上記の状況からすれば何ら不思議でもないように思える。

 フランスの著名な歴史人口学者、エマニュエル・トッドは急速に進むわが国の人口減少と人口の老化をあの「幕末の黒船以上の脅威」だと警鐘を鳴らしているが、介護もまた同様にこの時代を象徴する社会問題に違いない。その対処を誤れば社会の崩壊を招くだけである。まさしく「大介護時代」の到来である。

 「大介護時代」にふさわしい処方箋こそ、私たちに課せられた重い課題だ。その処方箋のひとつとして、家族介護者への支援とそのための根拠法の制定を挙げたい。現行の介護保険制度は、介護が必要な高齢者への直接的な支援にとどまっており、家族介護者は介護の資源とはみなされても支援対象とはなっていない。介護者の事前評価(アセスメント)や支援プログラムの開発によって、介護する人、される人がともに安心して暮らせる環境づくりが何より急務である。私が代表理事を務める日本ケアラー連盟は、この不可視化されてきた「家族介護者支援」という政策課題を「介護者(ケアラー)支援の推進に関する法案(仮称)」という形にまとめて具体的な政策提言を行ってきた。立法府や行政機関での議論が進み、無理なく介護を続けられる環境が整うことを念願している。