そして介護で最も手がかかるのは、実は徘徊する層だ。要介護1、2の歩行ができる認知症高齢者である。これまで続いた1割負担の時代は、軽度認知症高齢者は介護者と在宅で過ごしながらデイサービス、ショートステイなどを併用し、なんとか介護者の負担を低減しながら乗り切ってきた。

 しかし、利用料を2倍、3倍と跳ね上がらせることによって、多くの中間層の高齢者は介護サービスを使えなくなる。高額な介護保険を使うのは富裕層、もしくは自己負担を公費で賄ってくれる生活保護者が中心となる。老老介護、認認介護に苦しむ多くの世帯は、高額な介護保険を使えない。制度改悪によって、必然的に老老介護、認認介護の世帯は激増することになる。

 では、こうした老老介護、認認介護世帯が制度から切り捨てられることで、なにが起こるのか。

入居者を介護する職員。同時にさまざまな事態に対応
するので、腰掛けて休む時間はない=8月29日、
東京都(納冨康撮影)
入居者を介護する職員=8月29日、東京都
(納冨康撮影)
 認知症高齢者は住み慣れた地域でも、自宅から1歩外に出れば、道がわからない。自宅に戻ることができない。自宅を探して徘徊し、青信号、赤信号の判断もできない。赤信号を平気で渡る。主要道路の赤信号を横断したら、普通に車にひかれるだろう。

 また、沿線の線路をひたすら歩くことも考えられる。都市部には踏切のある沿線が多く、認知症高齢者が自宅を求めて線路内を歩く風景が日常になれば、鉄道事故も増える可能性がある。

 歩行だけでなく、認知症高齢者には、車で徘徊する人もいる。免許を返納させても、そんなことは覚えていない。信号無視の暴走、高速道路の逆走、アクセルとブレーキを踏み間違えることが相次ぐようになる。子供の集団登校に車が突っ込むような悪夢も、頻繁に起きかねない。

 まして認認介護になれば、夫や妻が徘徊していなくなっても近隣に助けを求められないし、警察に通報ができない。自宅からいなくなっても、多くは捜索願すら出ない。高齢者は体が弱いだけに、地域や季節によっては、一晩で凍え死ぬことも起こりうる。

 ゆえに、現在着々と進む介護制度の縮小、いわば利用料を上昇させて高齢者になるべく制度を使わせないようにする改悪は、すぐに国民全員に跳ね返ってくるおそろしいことなのだ。