2017年09月15日 13:39 公開

レベッカ・ジョーンズ芸術担当記者、BBCニュース

オペラ界で最も有名な歌手の一人、デイム・キリ・テ・カナワが歌手活動からの引退を表明した。BBCの「ラジオ4」で語った。

半世紀以上にわたって活躍してきたデイム・キリは1年前から舞台で歌うのをやめていたが、発表はしていなかったと話す。

「自分の声を聴きたくない」とデイム・キリは語った。「もう過去のことです。若い歌い手を教えていて、美しく、若く、新鮮な声を聴くと、それに自分の声を合わせてみたいとは思わない」。

世界各国の主要な歌劇場やコンサートホールすべてに出演しているデイム・キリは、1971年にロンドンのコベント・ガーデンで上演されたモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」で伯爵夫人に抜擢(ばってき)され、名前を知られるようになった。テ・カナワさんは当時、ほぼ無名だった。

「本当に信じられないようなキャリアを得た」とニュージーランド出身のデイム・キリは話す。しかし、自分自身で「これが最後に歌う音」だと決めることに強いこだわりがあったという。

ただし、「自分の中でさよならが言える」までに5年かかった。「時間をかけて決めたんです」とデイム・キリは語った。

最後の公演となったのは、昨年10月に豪メルボルン近郊のバララットで開かれたコンサートだった。「舞台に出る前、自分にこう言ったんです。これでおしまい。そしてそれが最後になりました」。

ニュージーランドの先住民マオリの血をひくデイム・キリは、今ではシャワーを浴びている時でも歌わないと言うが、後悔していないし、また歌いたいと思うこともないという。「これほどまでの経験ができた。素晴らしい思い出です」。

デイム・キリがクラシック音楽家として、ほかにあまり例がないほどの名声を得たのは紛れもない。1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式でヘンデルのアリア「輝かしいセラフィムに」を歌った際には、世界で6億人が視聴した。

「この歌を歌うよう2、3カ月前に言われたんです」。デイム・キリは当時を振り返る。「何カ月も自分の中だけに留めておかなくちゃならなくて、誰にも言えないって想像つきます?」。

しかし、ウェールズ公妃(ダイアナ妃)が1997年に死去した後、デイム・キリはこのアリアを二度と歌わなかった。「歌いたいと思わなかった」とデイム・キリは話す。「彼女が亡くなった時、この歌は永遠にしまっておくべきだと感じた」。

当時から曲自体、聴いていないという。「彼女への敬意というのか。彼女の死や、亡くなった時のこと全てがとても悲惨で、再び聴きたいと思わなかった」。

デイム・キリは、ラグビー・ワールドカップ(W杯)のテーマ曲「ワールド・イン・ユニオン」を1991年に開催された大会で、初めて歌った歌手としても知られる。2013年には、英ITVテレビのドラマシリーズ「ダウントンアビー」にゲスト出演した。

デイム・キリが今一番力を入れていると話すのが、自身の財団を通じて行う、オペラ界の将来のスターたちとデイム・キリが呼ぶ歌手たちの育成だ。

デイム・キリは今月、クラシック音楽誌「グラモフォン」の生涯業績賞を受賞。デイム・キリは「とても、とても特別だ」と語った。

それでもなお、デイム・キリは、過去にこだわるのは「身勝手」だと感じている。そして、自分のキャリアを実際振り返った時も完全に満足したことはないと強調する。

「望み通りの100%の完璧さに到達したことはない。舞台から降りて、『うまくいった』と思ったことがないんです。どこかミスがあったといつも思う。ずっと公演全体の自分の出来を分析していました」

しかし、デイム・キリは苦笑いしなからこう付け加えた。「努力はし続けましたよ」。

(英語記事 Dame Kiri Te Kanawa: I won't sing in public again