ここで前提としなければならないのは、現在の米国が保有する核戦力態勢である。米国の核態勢は、いわゆる「核の三本柱」(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)に、グローバルに展開可能なDCAを加えた各種運搬手段と、戦略・戦術核兵器の組み合わせによって構成されている。これらのうち、米本土に配備されるICBM「ミニットマン3」は言うまでもなく、第二撃能力としての秘匿性を重視するオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)がその位置を意図的に露呈することは考えにくいため、これらは前方展開を前提とする核共有・核持ち込みのいずれのモデルにも適さない。
4月26日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行われたICBM「ミニットマン3」の発射実験(米空軍提供・共同)
4月26日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行われたICBM「ミニットマン3」の発射実験(米空軍提供・共同)
 同様に、地下貫通型(バンカーバスター)の強力な戦略核(B61-11)を運搬可能なB2ステルス爆撃機はその航続距離と配備数20機という希少性から、また射程2500キロを超えるAGM-86B空中発射型核巡航ミサイル(ALCM)を運搬可能なB52長距離戦略爆撃機は、その利点である防空圏外からのスタンドオフ攻撃能力を犠牲にし、駐機中を先制攻撃されるリスクを負ってまで、在日米軍基地に常時前方展開することは想定しづらい。さらに、艦載機に搭載される戦術核や艦船に搭載する核トマホーク(TLAM-N)はいずれも既に退役・解体されている。そのため、かつて言われていたような、核搭載艦船による日本の領海通過や寄港という形での「核持ち込み」は今日では起こりえない。

 残る手段は、かつてNATOが「二重決定」に用いたINFの前方配備であるが、皮肉なことに、米国は今現在でもINF条約の順守を継続しているため、ノドンをオフセットできる射程500~5500キロ以下の地上配備型ミサイルシステムを保有していないのだ。

 したがって、現在考えられる唯一のオプションは、DCAと戦術核爆弾(B61-3/4)の前方展開という組み合わせに限られる。こうした前提で日本が米国との核共有を行うとすれば、2010年から始まった日米拡大抑止協議を格上げし、共同核作戦計画を策定。その上で在日米軍基地のいずれかに米軍が管理するB61用の備蓄シェルターを設け、それを有事の際に日本に提供するよう要請し、最終的には航空自衛隊のF-2戦闘機(将来的にはF-35A)に搭載して、総理大臣が核攻撃を命じるという形式が想像できる。

 しかし、現在の核態勢下で実現できるオプションを具体化してみると、NATO型の核共有は、政治・軍事両面のハードルが著しく高いと言わざるをえない。言うまでもなく、戦術核を常時国内に備蓄することに対しては、極めて大きな政治的反発が予想される。また、米国の核報復が期待できず、自らそのトリガー(引き金)に手をかける必要があるという論理であっても、NPTとの整合性を保つ上で、最終的な戦術核引き渡しの決定権は米国が握っている。また、日本から飛び立つDCAが北朝鮮上空に達するには早くても1時間以上かかるため、弾道ミサイル発射の兆候を察知した段階で、即時的な武装解除を目的とした核攻撃を行うにはDCAは意味をなさない。加えて、DCA搭載用のB61-3/4はバンカーバスター能力がなく、地下化された北朝鮮の重要施設を破壊することも難しいため、軍事的合理性にも乏しい。

 他方、軍事アセットを標的とする対兵力攻撃(カウンターフォース)ではなく、平壌に報復する対価値攻撃(カウンターバリュー・ターゲティング)を目的とするのであれば、「戦術核」とされるB61-3であっても出力調整により最大170キロトン(広島型原爆の約13倍)の威力を発揮できる。しかしその場合には、唯一の被爆国である日本の政治指導者が、自衛隊に対して民間人の大量殺戮(さつりく)を意味する報復を命じる覚悟を問われることになる。

 もちろん、NATOの核共有が現在でも維持されているのと同様、戦術核の前方配備が米国のコミットメントを高める一助となることは事実であろう。しかし北朝鮮側から見れば、緊迫した情勢下における戦術核展開は先制核攻撃の準備と映りかねない。何より、近代化された空軍を持たない北朝鮮は、出撃後のDCAを迎撃するのが困難なことから、地上に置かれているDCAとB61を先制攻撃で無力化することのメリットが大きい。当然、B61の備蓄シェルターの破壊に用いられるのは核ミサイルであろう。これは抑止論で言う「脆弱(ぜいじゃく)性の窓」と呼ばれる問題であり、「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険性がある。

 本来こうした形での先制攻撃の誘因は、前方配備の戦術核がある種の「トリップワイヤ(仕掛け線)」としての役割を果たすことにより、米国の戦略核報復を促すため、高次の抑止構造が機能していれば、トータルな抑止計算の上では抑制されるはずである。しかし、北朝鮮が少数のICBMによって、米国からの報復を抑止できると「誤認」した場合には、上記のような形で限定核戦争の戦端が開かれる可能性も否定できないのである。こうしたDCAの脆弱性と危機における安定性に起因する問題は、核共有を行わずとも、日本や韓国に米軍のDCAと戦術核を前方配備するケースでも起こりうることに留意する必要がある。