もともと日本では、核戦略や拡大抑止をめぐる議論それ自体が限られてきた。また、そうした議論があったとしても、その大半は現実の核態勢や運用上の前提を踏まえていない場合がほとんどである。もっとも、同盟国からの要請として、米国に核兵器の運用態勢の変更や、新たな兵器システムの開発を求めること、例としては、INF条約脱退や、残存性の高い移動式中距離弾道ミサイル(IRBM、「パーシング3」?)、TLAM-Nの再開発・再配備なども考えられる。しかし、それらの要求は在欧戦術核のように軍事的意義を失った兵器を政治的理由から維持し続けるよりもハードルが高い。そうした要求をするにしても、拡大抑止の受益国として、前提となる米国の核政策やその運用態勢を理解していなければ、抽象的な不安を伝達するにとどまり、問題の具体的解決策を議論していく説得力を欠いてしまうことになるだろう。

 結局のところ、北朝鮮の核・ミサイル脅威に屈することなく、日米韓のデカップリングを避けるには、どのような努力が必要なのだろうか。

 月並みではあるが、やはり必須となるのは、日米韓三カ国によるミサイル防衛体制の強化である。米国は北朝鮮のICBM脅威の高まりを黙って見過ごしているわけではない。現在米国内では、本土防衛能力のさらなる強化を訴える声が高まりつつあり、議会では共和党のダン・サリバン上院議員(アラスカ州選出)が主導する形で、GBIの配備数を最終的に100基まで増強することなどをうたった超党派法案が提出され、その内容は少なからず2018会計年度の国防権限法や現在策定が進められている政策指針「弾道ミサイル防衛の見直し」(BMDR)に反映されるものとみられている。

 日本では、現有のイージス艦4隻に加え、2隻が新たに弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与するための改修を受けている他、「SM3ブロック1B/2A」「PAC3MSE」といった新型・能力向上型迎撃ミサイルを調達する予定である。そして平成30年度概算要求では、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」を中心とした新規装備の取得を目指している。イージス・アショアは、BMD専用のSM3のみならず、弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機といった多様な経空脅威に対処可能な艦対空ミサイルSM6も運用可能であり、柔軟性が高い。

 また、現在配備されているSM3ブロック1Aよりも倍近い迎撃範囲を持つとされるSM3ブロック2Aと合わせれば、2基で日本のほぼ全域を常時カバーすることが可能であり、日本周辺に張り付けたきりになっているイージス艦の負担を軽減することも期待できる。ただし、イージス・アショアの国内配備は早くとも2023年頃とみられるため、一刻も早いミサイル防衛体制の多層強化のためには、韓国でそうしたように、在日米軍へのTHAAD配備を同時に要請すべきであろう。

 その韓国では、在韓米軍へのTHAAD導入が前倒しされた他、「KAMD」と呼ばれる韓国独自のミサイル防衛の構築が進められている。ところが、韓国のミサイル防衛に用いられるセンサーや在韓米軍のTHAADに付属するAN/TPY-2レーダーは、ハワイのミサイル防衛管制施設(C2BMC)を含めた地域のBMDネットワークとは連接されていないといわれている。これは韓国が日米のBMD体制に取り込まれることを嫌う中国の懸念を反映した「忖度(そんたく)」によるものとされるが、ミサイル防衛は各種センサーがネットワーク化されてこそ、弾道ミサイルの正確な追尾や効率的な迎撃が可能となる。ならば、中国の懸念を逆手にとり、「中国が北朝鮮問題に真剣に対処してこなかったことにより生じた、やむを得ない措置」として、日米韓のセンサー・ネットワーク連携を明示的に行うことで、それを中国に圧力をかけるレバレッジ(てこ)とすることも考えられるだろう。
9月7日、韓国南部、星州に搬入されたTHAADのミサイル発射台(韓国共同取材団撮影、聯合=共同)
9月7日、韓国南部、星州に搬入されたTHAADのミサイル発射台(韓国共同取材団撮影、聯合=共同)
 第二には、拡大抑止にかかる共同演習や、核の先制使用を含む作戦計画の共有・策定が挙げられる。核使用を伴う米軍の作戦は、太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行っている。そこで日米拡大抑止協議の内容を新ガイドラインで定められた共同計画策定作業と連関させ、グレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーションラダー(段階的な軍事衝突規模の拡大)を切れ目のない形で構築し、核オプションのより具体的な形での保証を促すべきである。

 またそれらの計画を基に、在日・在韓米軍、太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有しておくことが望まれる。この中では、危機時におけるDCAの前方展開リスク、グアムにおけるDCAや戦略爆撃機、SSBNの展開頻度を高めることの軍事的・政治的効用、さらにはICBMやSLBMをリアクションタイムの短い移動式ミサイルに対する即時的な武装解除手段として適切なタイミングで使用する必要性などについても、個別の作戦計画に照らして検証すべきである。