当たり前のことですが世界には日本より寒い国が沢山あります。その沢山ある国の中の一つ「北朝鮮」という国には何百人(警察の発表している「拉致の可能性が排除できない失踪者」は881人)もの拉致された日本人が、今この瞬間も閉じ込められています。日本に帰国された拉致被害者の方から聞いた話ですが、この年末の時期が一年で一番辛いそうです。それは体が感じる寒さのためではなく、「いつか祖国が助けに来てくれるだろう」との儚い希望が打ち砕かれ、家族から切り離された異国の地で、また一つ望まぬ年を重ねてしまわねばならないという絶望感に打ちひしがれてしまうからだそうです。当たり前のことですが、苦しいのは被害者御本人だけではなく、御家族も同様です。事件発生からの年月の長さを考えれば当然のことですが、皆さん御高齢になられており、今年も何人かの方が、再会の念願がかなわぬまま旅立たれてしまいました。

 そんな中でも、今年は5月29日のストックホルム合意発表以後、例年になく日本国中に、この問題が進展するのではとの期待が盛り上がったのですが、それがだんだんと尻窄みになって年が変わろうとしています。家族会を含め、多くの人が危惧した7月の制裁解除や10月の訪朝ですが、結果は今のところ皆が心配したとおりになっています。夏の終わりから秋の初めになれば再調査の結果が発表されるという話は、一体何だったのでしょうか?日本政府は一体、何のために制裁を解除し、誘拐犯のご機嫌をとるように平壌まで行ったのでしょうか? 

北朝鮮に拉致された日本人を救出するための連続集会で挨拶する横田早紀江さん。左は夫の滋さん、右は増元照明氏=11月6日、東京都文京区(蔵賢斗撮影)
 その一方で啓発コマーシャルやコンサートなどが、多くの予算を使って政府主催で行われています。確かに啓発活動は必要でしょうが、事ここに至った今、民間ならいざ知らず政府がやるべきことではないでしょう。過ぎ去った年月の長さを考えると、政府がやるべきことは結果を伴うことでなければならないというのに、これではいかにも「予算を余らせてはいけない」という典型的な役人のお金の使い方に見えてしまいます。あえて穿った見方をすれば、日本政府は拉致関連の予算で被害者家族を慰撫しながら、御家族がお亡くなりになるのを待っているのではないかとすら思えてきます。実際に日本国内で拉致事件の共犯者がのうのうと大手を振って暮らしていることや、山本美保さん失踪事件に関して警察がDNAの鑑定結果を捏造したことから考えると、あながち有り得ない話とは言えないでしょう。何れにしても今年を振り返ってみると、拉致被害者家族の方々にとっては、日朝両政府に振り回された一年であったと言えるでしょう。

 少し話しは飛びますが、それにしても今年、民間企業に落札された朝鮮総連本部ビルは法的な手続きに基づいて所有権が移転するというのに、一向に明け渡す気配が有りません。これらの常識では説明できない出来事は、永田町や霞が関に北朝鮮の意向を汲んで行動する人間が多くいるからなのでしょうが、北朝鮮問題の闇の深さに思いやられます。

 そのようなことも含め日本政府が何もしないのであれば「自分がやるしかない」と思い立ち(御本人に直接確認しておらず、私の勝手な推測です)前回の総選挙に出馬したのが家族会元事務局長の増元照明さんです。しかし、彼の得票数の少なさや拉致問題解決を訴えて選挙戦に臨んだ方々が殆ど落選したのを見ると、拉致問題に対する日本人の関心が薄れてきているのではないかと危惧いたします。とかく人間は、自分に関係のないことに対しては中々興味を持たず、自分さえ良ければそれで良いと思いがちですが、拉致被害者家族の方々は自分たちの家族「だけ」の帰国を望まれておりません。孫娘に会いたくとも決して北朝鮮には行かなかった横田さん御夫妻。一時、自分の娘が帰国するかもしれないとの噂が飛び交ったとき「恵子だけではだめなんです。皆一緒でなければだめなんです」と仰っていた有本さん御夫妻。

 それなのに、今年一年、日本政府は問題解決に結びつく具体的な結果を出せませんでした。我々は今一度、自分たちと同じ日本人が、日本から、わずかの距離(東京―平壌約1300km)のところに捕えられているという現実を噛み締める必要があります。そして日本という国が、自国民を拉致した犯人や閉じ込められている場所が分かっているにもかかわらず、取り返せない国であることから目を逸らすべきではありません。拉致被害者の奪還には、我々国民の声が欠かせないのですから。