2017年09月19日 15:41 公開

ポール・カービー記者BBCニュース

世論調査が正しければ、アンゲラ・メルケル氏は今後さらに4年、ドイツ首脳の座に留まることになるだろう。しかし今月24日に行われるドイツの連邦議会選は、欧州でも特に重要なポストに人を選ぶだけにとどまらない。ドイツの選挙の影響は、実に広範囲にわたる。

今回の総選挙では、第2次世界大戦後初めて、右派の国家主義団体を含む6つの政党が連邦議会に議席を得る見込みだ。

何がそんなに重要なのか?

メルケル政権は2015年、90万人近くの移民や難民に国の門戸を開いた。今回はその後初の国政選挙だ。

保守派のメルケル首相は国民に対して、何とかできるはずだと約束したし、実際その通りになった。しかし政治的には、少なくとも一時的には、メルケル氏率いるキリスト教民主同盟(CDU)は打撃を受けた。そしてそのメルケル氏は、首相4期目を目指している。

ドイツ政治は大きな変化の渦中にある。政界は分裂しつつあり、反移民・反イスラムを掲げる「ドイツのための選択肢」(AfD)は、今のところ無議席だが、選挙の結果、第3政党の座を確保するかもしれないのだ。

今のところ、AfDは州議会レベルの議席しか持たない。そして、極右的な発言を重ねる候補者を数人抱えている。

前回選挙では4つの政党が連邦議会に議席を得た(上図)。CDUと、姉妹政党のバイエルン・キリスト教社会同盟(CSU)は一つの党として数える。次の連邦議会では候補を立てる34政党のうち、6政党が初議席を得るかもしれない。二大政党以外で8%以上の支持率を得ているのは、緑の党、左翼党、AfD、それにリベラルな市場開放型の自由民主党(FDP)だ。

今回の選挙は他の欧州諸国にとっても大切だ。ドイツは欧州連合で、支配的な影響力を持つ。ドイツの経済規模がその理由の一端だ。またどの国よりもEU予算への拠出額が多い。

移民危機は今でも主要争点なのか

移民危機の問題は、紛れもなく大きな争点だ。関連する移民制度や難民受け入れ、移民がドイツ社会になじんで定着できるかどうか、難民申請不可となった移民の強制送還など、様々な論点と共に、主要争点だ。

最有力の対立候補、社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ氏とメルケル氏が議論した一度きりのテレビ討論では、移民問題が話題を独占してしまったと、独ニュースサイト「フォーカス」は不満だった。「本当に、難民以外に問題はないのか?」と。

それでもメルケル氏の支持率は移民の議論にはあまり影響を受けていない。最初はシリア難民に門戸を開いたが、その後政府は強硬路線を取り始めた。2015年の大みそかから新年にかけて、ドイツ西部のケルンで主に北アフリカ出身の男たちが複数の女性を集団暴行した事件を受け、国外退去を進めると約束した。

それでもメルケル氏の支持率は、移民論争にはあまり影響を受けていない。最初はシリア難民に門戸を開いたものの、政府はその後、強硬路線を取り始めた。2015年の大みそかから新年にかけて、ドイツ西部のケルンで主に北アフリカ出身の男たちが複数の女性を集団暴行した事件を受け、国外退去を進めると約束した。

重要な争点はほかにもある。社会格差、社会福祉と貧困が最たるもので、国内治安や教育も重要だ。だからこそシュルツ氏は、賃金の公正、学校の改善、安定的な年金の支給などを、有権者の耳目を集めようとしている。

たとえば意外なことに、2014年の時点で、ドイツの教育にかける公共支出はEU平均を下回っていた。

ブレグジットは選挙戦でほとんど話題にならず、テレビ討論会でも全く言及がなかった。

メルケル氏勝利は確実か

まだそうとは言い切れない。世論調査がなんと言おうと、有権者の実に46%が投票先を決めていない、数百万もの浮動票があるのだからと、シュルツ氏は言う。

しかしシュルツ氏率いるSPDは世論調査で、メルケル氏のCDU/CSUにいまだに約14ポイントの遅れを取っているし、浮動票が全てSPDに回る可能性は低い。

シュルツ氏はテレビ討論会でメルケル氏に大きな失点を与えられず、2度目の討論実施を強く懇願したものの、応じてもらえなかった。

SPDは過去4年間、メルケル氏の大連立政権に少数党として参加していた。これも、シュルツ氏の足を引っ張っている。

聞き入れてもらえていない。シュルツ氏の問題の一端は、SPDがこれまでの4年間、メルケル氏のの従属的パートナー だということだ。

シュルツ氏にとって唯一の望みは、選挙直前に支持率が急伸することだ。

一方でメルケル氏にとっては、独経済の好調ぶりも安心材料のひとつだ。国内総生産(GDP)は伸び、税収が歳出を上回っている。

政権は変わるのか

シュルツ氏はすでに、CDU主導の大連立復活は拒否したようだ。代替案はほかにある。

メルケル氏にとっては、次のような選択肢がある――。

  • 連立――CDUのイメージカラーは黒。企業寄りでリベラルな復活FDPは黄色だ。黒黄連立は2009年から、2013年総選挙でFDPが惨敗するまで、ドイツの連立与党だった。この組み合わせを再現するには、両党に十分な議席数が必要だが、可能性としては最も高いかもしれない。
  • 黒赤連立――CDUとSPDが連立すれば、3度目となる。黒赤連立は2005~2009年および2013~2017年に、政権を担った。
  • ジャマイカ連立――CDU、FDP、緑の党のイメージカラーが組み合わさると、ジャマイカ国旗の色になる。理想的な組み合わせではないにせよ、ドイツ北部のシュレスビヒ・ホルシュタイン州ですでに、この連立が実現している。

もしSPDのシュルツ党首にチャンスがあるとするならば――、

  • 恐らく緑の党と左翼党など、2党の支援が必要となる可能性が高い。ただしSPDと左翼党は不仲だ。
  • 最もカラフルで、最もあり得ない選択肢は、SPD、FDP、緑の党からなる、赤・黄・緑の「信号連立」だ。
  • 政策の上でCDUの大きな譲歩を確保しつつ、自分たちのプライドを飲み込むことが、シュルツ氏にとっては最善策と言えるだろう。

注目候補は

二大政党に挑む新たなスター候補は、どういう顔ぶれか。

2013年選挙の惨敗で野に下ったFDPは、38歳のカリスマ党首、クリスチャン・リントナー氏に率いられて復活してきた。新党首は教育を重視し、「デジタル第一」を推進する。

FDPが政権に返り咲くとすれば、アレクサンドル・グラーフ ・ラムスドルフ氏も、政府ポストを狙うはずだ。

左派寄りの緑の党を率いるのは、中道派のカトリン・ゲーリング=エカルト氏とジェム・オズデミル氏だ。オズデミル氏はメルケル氏に、対トルコ強硬策を進言してきた。一方のゲーリング=エカルト氏はプロテスタント教会で、複数の役職を務めてきた。

左翼党を代表するのは、ザーラ・バーゲンクネヒト氏とディートマー・バーチュ氏。右派国家主義的政党のAfDを率いるのはアリス・バイデル氏とアレクサンドル・ガウラント氏だ。最新の世論調査は、最大12%の得票率を示唆している。

AfDはどのくらい右翼なのか?

ジグマー・ガブリエル外相は「第2次世界大戦が終わって以来、初めて国会議事堂に真のナチが足を踏み入れる」可能性について懸念を示している。それは単なる選挙のレトリックなのだろうか?

AfDは強硬な反移民政策を掲げている。特に反イスラム的だ。ミナレット(モスクの尖塔)の禁止を呼びかけ、イスラム教はドイツ文化と相容れないと主張している。数名の候補は極右的な発言をしたとされている。

  • 共同党首アレクサンドル・ガウラント氏は、国民は自分たちの歴史を取り戻すべきだと主張する。「2度の世界大戦でドイツ兵士が成し遂げたことを、私たちは誇る権利がある」というのが、その主張内容だ。ガラウント氏はさらに、アイダン・オズオウズ統合担当相を、両親の母国トルコに「投げ捨てる」べきとも発言している。そして昨年には、黒人のドイツ人サッカー選手の近くに住むのはごめんだとも発言している。
  • 選挙戦中に、筆頭候補アリス・バイデル氏がアラブ人や、ロマ族とシンティ族をさげすむ内容の2013年のメールが流出した。バイデル氏はこれを「フェイクニュース」だと一蹴した。
  • 同党候補のフラウケ・ペトリー氏は2016年、ドイツへの不法入国を防ぐため「必要があれば」移民は銃殺すべきだと提案している。

誰が誰に投票できる?

ドイツでは、18歳以上の国民が4年に一度、連邦議会選挙に投票する。小選挙区と比例代表の併用制だ。

推定約6150万人が2回投票する。1回目は299選挙区における直接投票。2回目は16州ごとの政党リストの中から、政党を選んで投票する。連邦議会で議席を得るには、政党は得票率5%を獲得するか、最初の投票で3つの選挙区を勝ち抜く必要がある。

2回目投票の名簿には別に299議席が用意されている。さらにその上、2回目投票の比例配分に見合うよう、議席が増設されることもある。前回の連邦議会選挙では、630人が議席を得た。

今回の選挙では合計4828人が出馬している。29%は女性だ。候補者の半数に女性を擁立したのは、緑の党と左翼党のみだった。最高齢の候補者は89歳で、最年少は18歳だ。

(英語記事 German election: Why this vote matters