小林信也(作家、スポーツライター)

 巨人が「澤村拓一投手に謝罪した」というニュースが報じられたのは9月10日。このニュースに接してからずっと、胸が痛む思いが消えない。

   

契約更改を終え、会見に臨む沢村拓一投手 
=2016年12月、東京・大手町の球団事務所
契約更改を終え、会見に臨む澤村拓一投手 =2016年12月、東京・大手町の球団事務所
 胸が痛むのは、活躍の場を持つ投手が、人為的なミスによってその機会を奪われることへの痛切な哀感。本人の気持ちを思えば、言葉がない。同時に、その原因とされた球団トレーナーの気持ちや未来を思うと、いたたまれない。なぜなら、私自身が、はり治療によってスポーツ選手のケガを治し、オリンピックの金メダルを獲得させるなど、スポーツ施術の現場に直接関わっていた経験があるからである。私は鍼灸師ではないが、今回の騒動をめぐり世間から批判を浴びているトレーナー側、いわば当事者に近い立場でもあった。

 まずは、事件の経緯を確認しよう。サンケイスポーツ紙はこう伝えている。

 開幕前に右肩の異常を訴えて2軍で調整していた巨人の沢村拓一投手の故障の原因が球団トレーナーのはり治療での施術ミスである可能性が高いとして球団が謝罪していたことが10日、分かった。石井一夫球団社長、鹿取義隆ゼネラルマネジャー(GM)と当該のトレーナーが9日に川崎市のジャイアンツ球場で沢村に謝罪した。鹿取GMによると本人は納得しているという。

 これを公表した巨人の姿勢に一定の評価を与える反応もあるが、同じ球団に所属する選手とトレーナー間で起きた治療ミス(事故)とはいえ、「本人は納得している」という解決法で終わっていい問題なのかどうか。

 結局、「最善を尽くしても失敗することはあり、医療ミスは起こり得る」から、お互いの思いやりで「なかったこと」にするのが最も平和な解決だという現実はあるにはある。だが、もし本当に戦列離脱を長引かせた理由がはり治療だったとしたら、球団は澤村投手にもっと明確な補償をし、再発防止策を真剣に探る責務がある。

 同紙はさらに次のように報じている。

 球団関係者によると、沢村はキャンプ中の2月25日に右肩の不調を訴え、27日にはり治療を受けた。その後も状態が上向かなかったため、複数の医師の診察を受けて「長胸神経まひ」と診断された。まひは外的要因によるものとされ、はり治療で一時的な機能障害が引き起こされた可能性があるとの所見が出たことで、球団が謝罪した。

 この記事の下りには「複数の医師の診察」とある。「複数だから間違いなさそうだ」という印象を与えるが、ここにひとつの不公平が隠されている。検証のため診察したのは、いずれも西洋医学の医師であり、原因とされたのが東洋医学に基づくはり治療を施したトレーナーである。スポーツ界に限らず、日本の医学界はある時期からずっと西洋医学主導で動き、東洋医学を冷遇、または排除する方向に働いてきた。