現在では多くの労働者が、オフィスの外にいても、家庭の中にいても職場とクライアントの両方から、メールや携帯電話、ラインなどで仕事の世界に引き戻されます。職場でさばききれないほどのメールやラインのメッセージを処理した上に、家庭でもメールやラインのメッセージに悩まされます。

 また、新しい情報通信技術は仕事やビジネスの加速化、時間ベースの競争の激化をもたらし、経済活動のボーダーレス化や24時間化を促進します。これらは全体でみても一人あたりでみても、仕事量を増やしています。

 特に、24時間営業のコンビニエンス・ストアや全国翌日配達の宅配便は、利便性と引き換えに、過剰なサービス競争を生み出し、労働の過酷化と長時間労働を促進しています。そしてこれらの業態は、もう一方で長時間労働を強いられている労働者の生活を支えており、両者は相互依存の関係となっています。

 さらに、長時間労働が蔓延しているなかで、マスコミ関係者や医師、教員、警察官などの過酷な働き方が問題となっています。これらの分野の労働者はその労働の特質から、定まった時間内での勤務が難しい状況に置かれているからです。

 取材、治療、教育、犯罪捜査などは、突発的な事態が起これば、いかなる状況やどんな時間であっても対応をせまられることが多いでしょう。こうした分野の労働者にとって、長時間労働の是正が困難であることは容易に予想できます。
(iStock)
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 しかし、これらの分野の労働者についても、長時間労働の是正は必ず実現しなければならない課題でしょう。長時間労働や過酷な労働は、過労自殺や過労死、うつ病や精神疾患などを多数もたらしています。

 また、「共働き」世帯の増加や高齢化の進展は、これまで以上に男性労働者が家事、育児、介護に関わる必要性を高めています。男性労働者の長時間労働が是正できなければ、女性の労働参加や社会参加を妨げたり、仕事と家事、育児、介護の加重負担を女性に課すこととなってしまいます。

 それに加えて長時間労働や過酷な労働は、その労働の質を劣化させます。マスコミ関係者や医師、教員、警察官の働き方は、この点からも改善されなければなりません。取材、治療、教育、犯罪捜査は画一的・定型的な業務ではありません。どれも深い思考力や個々の労働者の創意工夫が求められる仕事です。長時間労働や過酷な労働によって十分な思考力や創意工夫が発揮されなければ、それは必ず取材、治療、教育、犯罪捜査の質の低下となってはねかえってきます。