今年1月には、過労自殺した高橋まつりさんの母、幸美さんが記者会見し、電通に対して過労死や過労自殺の再発防止に向け、遺族への謝罪、慰謝料などの支払い、再発防止措置などを盛り込んだ合意書を結んだことを明らかにした。再発防止措置は長時間労働・深夜労働の改革、健康管理体制の強化、18項目に及ぶものである。運用においては社内研修に遺族や代理人が参加するほか、年に1回、再発防止措置の実施状況を遺族に報告するなどの措置を取っているのは画期的だといえる。

 7月27日、電通は記者会見を開き、労働環境改善に向けた基本計画を発表した。主な柱は次のようなものである。

1.従業員1人あたりの年間総労働時間を14年度の実績2252時間から、2019年度には1800時間に約2割削減する。
2.達成のために、人員の増強、業務の削減、IT投資の強化、自動化の推進などに取り組む。
3.休暇の連続取得日数の増加を行う他、週休3日制導入や給与制度の見直しを検討する。

 労働環境改善に向けた、電通の「本気度」が伝わる高い目標だといえる。

電通違法残業事件の初公判後、会見を終えた
高橋幸美さん。手にする写真は、アメリカ旅行で
撮影された娘のまつりさん=9月22日(飯田英男撮影)
 ただ、これらの取り組みは、プロセスと結果をみなくては評価することができない。率直に難易度の高い目標である。この高い目標に立ち向かうがゆえに、現場が疲弊してしまったり、サービス残業を助長しないようにしなくてはならない。まず、労働者が死なない職場、倒れない職場にすることは急務だが、この改革によって現場が疲弊してしまうなら本末転倒である。

 もう一つ注目したい点は、電通が具体的に人材、ITに投資するということだ。70億円とも報じられる予算を投じて改革を行うのである。もし、電通の改革で成果が出たとしても、この点には注目しなくてはならない。働き方改革は常に痛みを伴う。創意工夫だけでは限界がある。このように人材やITに投資せず、創意工夫だけでなんとかなるわけではない。

 「働き方改革」は、来月投開票の解散総選挙でも論点になりそうだ。ただ、これらの改革が国民丸投げプラン、人材ビジネス企業やIT企業への利益誘導の側面が垣間見られる現実も直視しなくてはならない。すでにビジネス雑誌などでは「働き方改革成功企業」なるものが欺瞞(ぎまん)に満ちていないかという疑問が渦巻いている。

 電通の目標や取り組み事項は立派だが、プロセスと結果を見なくては評価できない。うがった見方をするならば、社員手帳から「鬼十則」を削除したにもかかわらず、相変わらず気合と根性の改革にも見える。「人が死ぬ会社」からは即刻変化するべきだが、電通を起点に「働き方改革疲れ」が広がらないことを祈っている。