嶋﨑量(弁護士)

 昨年9月末に労災認定が出た電通の新人女性社員の過労自死事件は、社会に大きな衝撃を与えた。当初政府が掲げていた「働き方改革」における長時間労働是正策の狙いは、もっぱら労働生産性向上など経済対策の一環としての提起ばかりであり、長時間労働是正について論じる際に本来中核に据えられるべき、命や健康の問題は脇に追いやられていた。

 しかし、これを一変させたのが電通過労自死事件であった。「働き方改革」、とりわけ長時間労働に関しては、電通事件によってその意味合いが大きく変化したといえる。政府も電通事件のインパクトは無視できず、これまで経済対策としての長時間労働是正、例えば、少子化対策や女性活躍といった側面ばかりが強調されていたが、それに加えて命や健康に着目した対策が重視されるようになった。

 過労死・過労自死を生むような働き方、働かされ方がこれまでにない大きな政治課題として世間の関心を呼び起こし、結果、労働基準法改正において、罰則付きの時間外労働の上限規制の導入が急ピッチで議論され、政府主導によって上限規制を含む法案要綱が諮問・答申されるに至った。

電通の本社ビル=2016年12月28日、東京都港区(共同)
電通の本社ビル=2016年12月28日、
東京都港区(共同)
 また、政府が2年以上前に法案を提出したまま、あまり注目されずに棚ざらしとなっていた、いわゆる「残業代ゼロ法案」(高度プロフェッショナル制度導入と企画業務型裁量労働制の拡大)への社会の関心が徐々に高まっている。近時、労働組合のナショナルセンターである連合が、残業代ゼロ法案を容認したのかという問題が広く報じられ注目されたが、電通事件によって長時間労働は労働者の生命や健康の問題であることが再認識されたといって間違いないだろう。

 このように電通事件は、過労死・過労自死問題のいわば象徴として、政府、財界のみならず、労働側の取り組みを含め、長時間労働の問題に関する対応について大きな影響を与えた。そんな中で、労働基準法違反により、法人としての電通自体が刑事罰を科されるという事態に至ったのである。