櫻田淳(東洋学園大学教授)

 9月25日夕刻、安倍晋三総理は「朝鮮半島の核」に絡む国際緊張が顕著に高まる最中、衆議院解散・総選挙の決行を表明した。これに先立ち、民進党の松野頼久国対委員長が「北朝鮮がミサイルを撃った中で選挙するのは、あまりにも平和ぼけしている」と語ったのは、彼が「平和ボケ」の言葉を口にする姑息(こそく)さや浅薄さを脇に置くとしても、その解散・総選挙を受けた心理の一端を示す。
衆院解散について会見する安倍晋三首相=9月25日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
衆院解散について会見する安倍晋三首相=9月25日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 現下、朝鮮半島情勢は高い緊張が保たれたまま事態が動かないという一種の「凪(なぎ)」の局面に入っている。北朝鮮の立場に仮託して考えれば、彼らにとっても「次の一手」は難しいかもしれない。彼らは、既にグアム島周辺に着弾するミサイルを撃つオプションを開陳しているけれども、そうしたオプションは、たとえ偶然であっても米国領域内に着弾すれば、それは即時の報復を招くであろう。

 追加の核実験にしても、豊渓里(プンゲリ)実験場が度重なる実験によって地盤が崩落し、今後も使い続けられるかは疑わしいという観測が正しいならば、次が「打ち止め」になる。北朝鮮も、手段がミサイルと核実験に限定される限りは、事態をエスカレートさせ続けるわけにはいかないということである。たとえ、北朝鮮が日本列島を飛び越すミサイルを撃ってきたとしても、それは、8月以降の数字が「2」から「3」になるだけのことである。

 北朝鮮が挑発の効果を保つためには、再び「0」を「1」にするオプションを採らなければならないであろうけれども、そういうオプションも既に尽きかけているのではないか。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が言及した「太平洋上の水爆実験」というオプションにしても、それは、米国というよりも国際社会全体に実害を及ぼしかねないものである以上、決して軽々に採れるものでないであろう。

 以上の筆者の観測によるならば、現下の朝鮮半島情勢の「凪」が去り「嵐」が本格的に訪れる前に、日本の態勢を固めるべく衆議院解散・総選挙に踏み切った安倍総理の判断は、それ自体としては何ら誤っていないのであろう。

 此度(こたび)の選挙に際して留意すべきは、東京都の小池百合子知事が自ら代表に就任する体裁で立ち上げた国政新党「希望の党」の動向である。小池新党は、現時点で参集した若狭勝衆院議員、細野豪志元環境相、日本のこころの中山恭子代表、松沢成文参院議員、長島昭久元防衛副大臣、松原仁拉致問題担当相といった政治家の顔触れを見る限りは、それが「中道・保守・右派」色の濃厚な政党として理解されよう。