小池氏が総理を狙うなら安倍さんには「山口那津男首相」の秘策がある

『倉山満』

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倉山満(憲政史家)

 甘ったれるな!安倍晋三以外、他の誰に首相が務まるのか。

 確かに、政治とは理想を求める前に、「よりマシ」な現実を求めるものだ。安倍首相は、そのような政治のリアリズムに助けられてきた。野党民進党の歴代党首は論外として、自民党の派閥の領袖にも「よりマシ」な候補者は見当たらない。消去法で安倍晋三。「一強」の実態とは、そんなものであった。
では、私がリアリストとして答えよう。

 公明党代表の山口那津男では如何か?

 これまで私は、安倍晋三首相を応援してきたつもりだ。安倍さん――あえて「さん」付けで呼ぶ。安倍さんが失脚し、世間から過去の人となっていた時に、私は「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人の一人として、「日本救国ができるのは安倍晋三さんしかいない」と訴え続けて来た。では、政権返り咲き以降、「山口首相」ではできないことを何かなしえたか。「まず経済」と訴えながら、その景気回復すら中途半端。結局、民主党よりマシというだけで、何も実績などないではないか。

応援演説を行う公明党の山口那津男代表
=7月1日、東京都(春名中撮影)
 9月25日、安倍首相が衆議院の解散を宣言した。大義名分は「消費増税10%の用途変更」だ。つまり絶対に増税するという前提だ。ところが、翌26日、「リーマンショック級の景気悪化なら増税は延期する」とも付け加えた。こういうのをリアリズムとは言わない。同じことを二つの表現で言おう。

 安倍総理は、財務省を相手によくやっている。
 安倍総理は、財務省にケンカを売れないヘタレだ。

 首相が増税を言うたびに消費は冷え込む。当たり前だ。税金が上がるとわかっているのに、貯金をしないで消費するなど愚かだ。これがアベノミクスの生命線であるインフレターゲットの効果を減殺する。こんなことばかりやってきたからせっかく景気が回復軌道なのに、モタモタした結果にしかならないのではないか。という経済学の基礎の議論を詳しく語るつもりはない。

 要は、景気を回復したい安倍首相と、景気回復などよりも消費税増税の方が大事な財務省のケンカなのだ。日本の運命にとって、どちらが重要な敵か。財務省と比べれば、民進党など風の前の塵に同じだ。今の安倍首相、財務省に勝てないから、自分より弱い者いじめをしているようにしか思えない。相手が民進党なら増税を公約に掲げて選挙をしても勝てる。甘く考えていないか。
民進党は社会党の劣化コピー

 安倍首相の言動を一切批判するなと他者にしいる者を「信者」と呼ぶ。信者一同曰く。今なら民進党に勝てる!

 では、聞く。いつなら、負けるのか?

 民進党とは、社会党の劣化コピー政党である。そんな政党相手の選挙など、モリカケ騒動(森友・加計問題)の真っ最中でも勝てるだろう。かつて、日本社会党という恥ずべき政党があった。政権担当恐怖症の政党であった。それでは、何の為の政党か。日本国憲法を改正させないことを目的とする政党である。改憲阻止のハードルは低い。衆参いずれかで三分の一の議席を持てば、誤植一文字の改正も阻害できる。いつしか人は、“二本斜壊党”と揶揄するようになった。左派と右派の派閥抗争で自滅していったからだ。

 社会党を育てたのは誰か。与党第一党の自由民主党である。自民党は如何なる手段を使ってでも政権の座に居座りたい政党である。これはこれで大いに問題はあるが、政権担当恐怖症の社会党よりは、よほど健全である。しかし、それは政権担当可能な政党が二つ以上ある場合の話である。

 衆議院で51%以上の議席が欲しい自民党、衆参どちらでもいいから34%の議席が欲しい社会党。両者の思惑が一致した。1955年の両党の結党時、自社で衆議院の90%を占めた。55年体制のはじまりである。民主制においては、三つ目の政党が必要かどうかはともかく、最低限二つの選択肢がなくてはならない。一つだと、ファシズム(一国一党)と同じだ。
記者会見に臨む安倍晋三首相=25日午後、首相官邸(福島範和撮影)
 最初の20年間、自民党の一党優位は機能した。高度経済成長により富の公正配分を行う。要するに、「国民を食わせる」政党として、自民党の存在意義があった。それも、石油ショックで高度経済成長が終焉すると、55年体制の限界は誰の目にも明らかになった。ところが、自民党は今に至るまで延々と政権にしがみついている。「まさか社会党に政権を渡す訳にはいかない」という国民の良識が働くからだ。そして社会党が野党第一党にしがみつくことで、他の野党の進出を妨害してきた。かくして自民党の地位は安泰である。

 昭和51年以降の国政選挙は、すべて「風」によって決まっている。新自由クラブ以降、次々と新党が浮かんでは消えた。「風」とは無党派層の動向を指す。自民党に不満はあるが、かといって他に選択肢はない。まさか社会党に政権を任せるわけにはいかない。かくして自民党はおごり高ぶり、腐敗の極みに達した。
「核武装」ぐらい目指すべき

 こうした状況で登場したのが民主党である。民主党には、昔の社会党や今の民進党と比べて褒められる点がある。政権担当の意思を示した野党であったことだ。もともと民主党は、鳩山由紀夫と菅直人の二人から始まり、野党第二党、第一党の地位に登った。リーマンショックで自民党の腐敗と無能が頂点に達した麻生太郎政権の時、国民の怒りが頂点に達した。 

当確のバラをかざる鳩山由紀夫代表(左)
=2009年8月31日(早坂洋祐撮影)
 「鳩山民主党でもいいから、麻生自民党は嫌だ」

 その後の民主党三代の内閣の無能については、贅言(ぜいげん)を要すまい。今次安倍内閣は、「民主党よりマシ」という多数の国民の声が支えているという謙虚さを忘れてはなるまい。自民党の中にも心ある人はいて、「あの最悪の民主党の方がマシだと思わせた反省をしなければ、また同じ道を歩む」との危機感を持つ人はいる。だが、そのような良識派は少数派だ。むしろ、55年体制の再現の如く、「まさか民進党に政権を渡す訳にはいくまい。国民は自民党に投票するしかない」という驕り高ぶりが露骨だ。その民意が夏の都議選で示されたのだ。

 それを、民進党がスキャンダルで自滅し、安倍内閣の支持率が回復したからと、慌てて解散に打って出る。いいかげん、「民進党よりマシ」という発想から抜け出すべきではないのか。

 事前の報道では、安倍首相の解散理由は「増税の用途変更、北朝鮮対応、憲法改正」だと伝えられた。ところが9月25日の記者会見では改憲が外れた。さっそく腰砕けだ。公明党に遠慮でもしたか。自民党の憲法と安全保障を一手に担っていた高村正彦副総裁も引退する。まさか安倍内閣で中身がある憲法改正ができるなどと信じるのは、よほどおめでたい楽観論者だけだろう。内閣法制局と公明党が納得するような、「やらなければよかった改憲」なら、いざ知らず。

 北朝鮮対応に関しては、果たして争点になるのか。さすがに、いかなる政党も正面だって「北朝鮮に対応するな」とは言わない。具体的にどのような対応をするかで、差はあっても。もちろん、民進党や共産党が表立っては北朝鮮対応の総論に賛成しつつも、あらゆる各論に反対しサボタージュに近い行動をとってきたことは重々承知だ。

 しかし、日本国民とて愚かではない。マスコミが何を言おうが、これまですべての国政選挙で安倍自民党に多数を与えてきた。衆議院を解散するとは、その多数をかなぐり捨てることである。勝つかもしれないし、負けるかもしれない。やってみなければ、わからない。では、その代償に何を獲ようとしているのか。少なくとも、安倍首相は記者会見では何も言わなかった。

 この時期に賭けに出るならば、「核武装」くらい勝ち取らねば割に合わない。北朝鮮は、「日本列島を核で沈める」などと豪語している。この状況で我が国がNPT条約を脱退し、核武装に踏み切るのを批判する国際法的根拠は何か。誰も答えられまい。安全保障の問題ならば、言うに及ばず。
ニッポンの命運を握るのは衆議院選挙ではない

 内政では、内閣支持率が回復し、民進党がスキャンダルで自滅している。国外では、トランプアメリカ大統領が本気で北朝鮮攻撃を考えているから、その前に総選挙を済ましておきたいとの思惑もあろう。では、その時に日本は何をするのか? 飯炊きか?

 戦後日本は「軽武装」を国策としてきた。では、軽武装とは具体的に何のことかわかっているのか? 米軍の足手まといにならず、自前で日本列島防衛ができる数字のことである。その数字は32万人である。首相官邸以下首都機能、自衛隊基地、羽田成田など主要飛行場、主要港湾、主要幹線を米軍に頼ることなく守る実力が軽武装である。ここに原発は入っていない。より正確に言えば、本来ならば50万人必要なところだが、過渡的な数字として32万人である。ところが、自衛隊は25万人の定足数を満たしたことが一度もない。

 安倍内閣は戦後最高の防衛費だと騒いでいる。しかし、GDP1%枠を頑なに守って、数千億単位を増やしているだけだ。だが、トランプは「文明国水準のGDP2%の防衛費をかけて努力してほしい」と求めてきている。5兆円増額だ。お話にならない。何より財務省から勝ち取った雀の涙ほどの防衛費増額が、金正恩に通じるのか。相手にもされまい。

 だから、安倍首相が「北朝鮮有事に備える」と言っても、何をするのかよくわからないのだ。この程度なら「山口首相」でも可能ではないか。

 私は本来ならば、来年の6月に衆議院を解散すべきだと考えていた。来年の9月に自民党総裁選があるが、その前の3月に正副日銀総裁人事がある。日本の運命は衆議院選挙などでは決まらない。日銀人事で決まるのだ。思えば安倍首相は返り咲くにあたって、「法王」とまで呼ばれ圧政を極めていた当時の日銀総裁、白川方明の討伐を掲げた。

 「白川を討つ!」その宣言に15年にも及ぶデフレに苦しんでいた国民は狂気乱舞した。その宣言だけで株価が急騰した。

 そして、日銀に意中の人物である黒田東彦総裁と岩田規久男副総裁を送り込み、すべての委員人事で勝ち続けた。消費増税8%で黒田バズーカの効果は打ち消されたが、バズーカ第二弾の「ハロウィン緩和」で何とか持たせている。
金融政策決定会合後に記者会見する日銀の黒田東彦総裁=21日、東京都(飯田英男撮影)
 日銀人事に勝つ、株価が上がる、支持率が上がる、選挙に勝てる、政界で誰も逆らえない。実に単純な構図だ。財務省が何を考えて日本を滅ぼしかねないデフレ期の増税などを企んでいるかはわからない。しかし、その財務省と安倍内閣が何とか張り合えて来たのは、すべて日銀人事で勝ってきたからなのだ。

 解散権を手放してしまった以上、今さら言っても仕方がない。仮に安倍首相が総選挙後に続投し、3月の日銀人事で抵抗が起きれば、そこでもう一度衆議院を解散しても構わないのだから。今の創価学会の同意抜きで選挙ができない自民党に求めるのも酷だが。
「公明・山口首相」ができないことをやる

 大正時代、憲政の常道を主唱した吉野作造は「黒幕を引きずり出せ。政界の支配者は、総選挙により国民の審判を受けよ」と訴え続けた。吉野は衆議院第一党の総裁が総理大臣たるという形式も大事だが、実質も大事だと説いた。

 与党第一党は、自由民主党だ。しかし今の自民党など、創価学会の孫請けにすぎない。安倍内閣で政権に返り咲いてから、一度も公明党に逆らった事があるのか。ならば山口首相でもいいではないか。

 安倍首相の代わりの選び方は簡単だ。山口那津男氏に公明党代表在任のまま、自民党に入党してもらう。そして自民党総裁選挙に立候補してもらう。もちろん対抗馬やその候補に投票した議員には、創価学会の支持は得られない。おそらく満場一致で山口自民党総裁が誕生するのではないか。最強の政治家が与党第一党総裁として総理大臣になる。憲政の常道の実現だ。形式的には。

 ただし、それが国益になるかどうかは保証しない。安倍首相は続投したいなら、「山口首相」ではできないことを正々堂々と訴えるべきだ。姑息にリアリストを気取る姿勢が孤高民の反感を買っていることに、いいかげん気づいたらどうか。あなたが民進党よりマシなのは、ほとんどの日本人が知っている。そして他に選択肢がないことに、嫌気も指しているのだ。

 しかし、そもそも政治家が官僚に言いくるめられる、あるいはケンカして負けて泣いて帰ってくるようなら、選挙の意味がないではないか。希望がないわけではない。トランプ大統領が国連で、横田めぐみさんの名前に言及しながら、北朝鮮を強く批判した。小泉内閣以来、最も拉致被害者奪還の好機到来だ。今からでも遅くない。
衆院解散について会見する安倍晋三首相=25日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 「たった一人の国民の権利を総力あげて守るのが主権国家だ。日本国はすべての拉致被害者を取り返すために総力をあげる。我が国の国民を拉致し、日本列島を核兵器で沈めると豪語している国が隣にある。それでも我が国は核兵器を持ってはけないのか。国民の皆様に信を問いたい」

 これは「山口首相」には言えない。信者諸君から、「安倍さんにも言えないよ~」という甘やかした声が飛んできそうだが、そういう過保護な言論が、この体たらくを招いたのだ。

 何度でも言う。安倍内閣の評価は、安倍晋三首相が「山口那津男首相」がなしえないことをやった時に決まる。

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