小林信也(作家、スポーツライター)

 サッカー日本代表・ハリルホジッチ監督の「異例の講義」が話題になっている。猛抗議になぞらえて「猛講義」と表現したメディアもあるほど熱い語りだったようだ。

 9月28日、来月初旬のキリンチャレンジカップ2017に臨む日本代表メンバー24名を発表する記者会見が行われた。集まった報道陣にハリルホジッチ監督はすぐメンバー発表をせず、18分にわたってまず「講義」したのだ。

 各紙の報道によれば、内容は主に、

「日本のサッカーは、独自のアイデンティティーを築かなければならない」
「日本ではポゼッション(ボール支配)の重要さが強調されるが、ポゼッションが高ければ勝てるわけではない」
「それより大切なのはデュエルだ」

 といったメッセージだった。

 ちょうど直前行われたヨーロッパのチャンピオンズ・リーグ、バイエルン対PSGの試合内容と結果が、「わが意を得たり」の展開だったことも、講義を行う意志に勢いを注いだようだ。ハリルホジッチ監督はこの試合のデータを挙げて言った。

 「PSGのポゼッションは38パーセント。パスの数も368対568、シュートもバイエルンの方が多い。コーナーキックはPSGが4本でバイエルン18本。クロスも4本対36本」

 ところが、3対0で快勝したのはそれらの数字で劣るPSGだった。

 「PSGが上回ったのは、デュエルの成功率だ。ポゼッションだけでは意味がない。モダンサッカーでは、ゲームプランやゲームコントロールが大事なのだ」

サッカーW杯アジア最終予選。オーストラリアに勝利し選手らに水をかけられるハリルホジッチ監督=8月31日、埼玉スタジアム
サッカーW杯アジア最終予選。オーストラリアに勝利し選手らに水をかけられるハリルホジッチ監督=8月31日、埼玉スタジアム
 それはまさに、2018ワールドカップ出場を決めたオーストラリア戦でハリルが描き、見事勝利を収める要因になった戦術そのもの。その勝利でハリルホジッチ監督の再評価が進んでいる今だから、「猛講義」は説得力があった。常に「上から目線」で評論したがる傾向の強い日本のサッカージャーナリストやサッカー指導者たちにも一考を促すきっかけになっただろう。

 デュエルという用語は、ハリルホジッチ監督が日本代表を率いるキーワードに設定し、盛んに使うことで日本でも広く認識され始めた。デュエルはフランス語、直訳すれば「決闘」という意味だ。ハリルホジッチ監督はサッカーのあらゆる局面で起こる《球際の勝負》をこれに投影している。