秦郁彦(現代史家)

屋内ばかりか屋外もアウト


 2020年の東京五輪に向け、受動喫煙対策の強化を狙う厚生労働省の健康増進法改正案が立ち往生している。たばこ議員連盟(野田毅会長)の主導する自民党が阻止する構えを崩さないからだ。

 通例だと政権与党の対立は内輪の暗闘にとどまり、メディアが騒ぎ出す以前に双方が歩み寄ることで収拾されてきた。そうならなかったのは「スモークフリー(たばこのない)社会に向けて歴史的一歩を踏み出さないといけない」と意気込む塩崎恭久厚労相の挑戦的姿勢が一因かと思われる。

 厚労相の発言を聞いて、さては1920年から33年まで施行され、「酒のない社会の実験」と評されたアメリカの禁酒法にならい世界最初の完全禁煙法を目指しているのか、と忖度(そんたく)する人がいるかもしれない。

 一挙に禁煙法まで行くのは無理だろうが、厚労省案が実現すれば、日本がたばこ規制では世界中でもっとも厳しい国になるのは、ほぼ間違いない。屋内喫煙はアウトだが、野外はセーフというのが世界の大勢なのに、わが国は屋内ばかりか屋外もアウトの範囲を広げつつあるからだ。

 屋外禁煙という日本独自の手法が生まれたのは、15年前の2002年に制定されたポイ捨てや路上喫煙を禁止する千代田区の条例が最初で、マスコミの話題を集めた。

 28カ条からなる「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」は、自宅周辺の清掃、防犯カメラの設置、吸い殻、空き缶等の投げ捨て禁止、違法駐車の防止と幅広いが、区長が指定した路上禁煙地区等の道路上における喫煙とポイ捨てを禁止していた。違反者には「2万円以下」の過料(罰則)となっていたが、トラブルを避けるため2000円しか徴集しないという戦略は成功した。
( iStock)
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 徴集に出かけるパトロール隊(現在は22人)を、発案者の区長が高層階の自室でたばこを吸いながら見送っているとか、隣区との境界をまたいで立ち、1000円に負けろとごねた人士もいたらしい。

難解をきわめる区条例


 こうした華々しい宣伝効果のせいか、たちまち全国の自治体に波及、今や東京23区のうち22区(残る1区は渋谷区)、全国では243の市区町村が類似の条例を施行している。