厚労省が定めた「分煙効果判定基準」は副流煙の洩れはないという前提で、外と内の界面での風速が0.2m/秒という条件を満たさないと助成金は交付されない仕組みである。

高性能の屋内喫煙所
高性能の屋内喫煙所
 欧米諸国では経済的理由もあり、低性能の喫煙室にしかなじみがないし、日本も間切り板だけで「分煙」している場所はまだ残っている。そうだとすれば、日本はハイテク技術を磨き、より高性能の喫煙室を整備する方向で対処すべきではないかと思う。

 口実を失いかけた原理主義者たちは、喫煙者が煙でにおいを衣服につけてくると言いだしているが、禁煙の次室を作って、外の空気と汚れぐあいを比較したり、臭い消しの装置を開発したりの対策も進んでいる。

肺がんの主犯は誰か


 そもそも喫煙と肺がんの直接因果関係は諸説があり、科学的に立証されているとは言えない。内外で多くの医学者が数十年にわたりマウスにたばこの煙を吸わせ、がんを発生させようと努力を重ねているが、めぼしい成果は見られない。

 成功したら、ノーベル医学賞をもらえるだろうと言う人さえいる。1955年に53%(男子は85%)だった喫煙率は60年後の2016年に19%まで低下した。人口動態統計によると、同期間に肺がん死者は、1119人から70倍の7万7300人へと激増している(詳細は拙著『病気の日本近代史』を参照)。平均寿命も20歳ばかり延び、なおも延びつづけている。控えめに見ても、たばこを肺がんの主犯とみなすのは無理がある。

 では主犯は誰か。他ならぬWHOが2014年3月に、最大のリスクは、自動車の排ガスを筆頭とする大気汚染だと報告している。アクセルを1回踏むとたばこ数十本分の排ガスが出るのは、ドライバーの実感でもある。それに次ぐのは医療用の放射線被曝(ひばく)、たばこ、食生活……。

 厚労省研究班(国立がん研究センター)も2011年10月に「日本におけるがんの原因」と題するレポートを発表している。がん死の要因となる寄与率(推計)の第1位は能動喫煙で23.2%、2位が感染性要因(ウイルスなど)の21.7%、3位が飲酒の6.2%、4位が塩分のとりすぎ(1.4%)、のあと、5位に受動喫煙の0.9%が来る。

 WHOが重視した大気汚染や放射能が出てこないのはなぜかと不審に思ったら、「職業的リスク、大気汚染、放射線暴露などの要因については、日本における信頼性の高いデータがないことから含まれていません」と逃げ口上があって失望した。しかも「日本人のがんの半分以上は原因がわからないままです」と結論しているので、茫然とした。

 首位候補の寄与率をあっさり外したのでは何のためのレポートだったのか、抗議したくなるが、「石油業界と自動車業界が、たばこをスケープゴートにしているようにしか見えない」(養老孟司)のが的を射ているのかもしれない。