都条例など生ぬるい! 実は120年前に「未成年者禁煙法」があった

『薗潤』

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薗潤(日本タバコフリー学会代表理事、医師)

 受動喫煙によって年間1万5000人の死亡をはじめとする命にかかわる健康被害が明らかになっている現在、「何人たりとも受動喫煙で死なせない」という大原則を忘れてはならない。子供だけでなく大人を含めた全ての人を守る「分煙を認めず」「例外なし」で「罰則(過料)付き」の受動喫煙条例や法律の制定が絶対に必要である。

 「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」(以下、条例と略)が「万人に対して受動喫煙を防止する法律や条例」の上乗せとして、特に自らの意思で受動喫煙を避けることが不可能な子供を特別に保護するという趣旨なら理解できる。しかし、大人をも守る包括的な「都民を受動喫煙から守る条例」が制定されないのであれば、本条例は子供を隠れ蓑(みの)にした弥縫(びほう)策との誹(そし)りを免れないであろう。

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 子供は心身ともに健やかに成長する権利を有しているが、その権利を大きく侵害するのが児童虐待であり、児童虐待は犯罪である。虐待を受けた児童には、たばこの火の押し付けによるやけどの跡がよく見られるが、そもそも子供を受動喫煙に曝(さら)すこと自体が児童虐待であるという認識が必要である。

 乳幼児突然死症候群の三大リスクの一つに、受動喫煙が挙げられていることは言うまでもない。米国小児科学雑誌に掲載された論文では、受動喫煙に曝された子供の尿中からは、高濃度のコチニン(ニコチンの代謝物)が検出されている。また寒冷地では、特に冬場に窓を閉め切った自家用自動車に子供を乗せる機会も多く、保護者の車内喫煙による子供の歯肉の着色変化も観察されている。 大気汚染で悪名高い微粒子物質PM2.5の環境基準濃度は35μg/m3であるが、窓を閉めた車内での喫煙では1000μg/m3を超えることがあることも証明されている。

 2015年から英国のイングランド・ウェールズ地方では、18歳未満の同乗者がいる車内で喫煙すれば、罰金50ポンド(約7500円)が科せられているという。この措置がなされた背景には、英国医師会の強い働きかけがあったと聞いている。今回の条例提出には、同様に東京都医師会や弁護士の強い働きかけがあったと推測する。子供の権利を守る専門職からの条例提案を、議会が重く受け止め、条例が成立・実施されることを希望する。
明治時代の「喫煙禁止法」

 条例第8条は、子供が同乗している自動車内における喫煙の制限(禁止)を規定している。将来は英国に倣い、子供が同乗している車内での喫煙に対しては、行政罰で裁判の不要な過料を科すのが望ましい。私的空間に対する行政の介入ではないかとの批判は当たらない。自家用車内は私的空間だが可視化されており、特段の監視装置がなくても、子供の同乗や車内の喫煙行為の有無を目視できる。子供が受動喫煙に限らず体罰を受けていることが確認されれば、行政が介入するのは当然である。

 条例第6条が規定している家庭等における受動喫煙防止については、家庭の中まで行政が監視することは実際には困難だ。しかし、第8条に子供が同乗している車内での喫煙禁止の規定がある事が、保護者の意識改革を促し、ひいては家庭内での受動喫煙防止にもつながると確信する。

 条例第7条の受動喫煙防止措置がなされていない飲食店・ゲームセンター・カラオケボックスへの子供の立ち入り禁止は、保護者に対する注意喚起にとどまらず、各店舗の完全禁煙化に拍車がかかるものと期待できる。また、コンビニ等の入り口周辺の受動喫煙対策も規定すべきであろう。
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 条例第9条の公園等受動喫煙防止規定も、公園や広場のベンチが喫煙者に占領され、受動喫煙被害を受けずに公園を利用することが困難な現状を考えれば当を得たものである。特に児童が多く利用する児童遊園においては、喫煙を禁止すべきである。第10条の学校・福祉施設周辺、第11条の小児科医療施設周辺の路上での受動喫煙防止について、第11条では7m以内と具体的規定があるが、第10条でも同様の規定をするべきである。スポーツクラブ指導者などの学校利用者が、近隣路上で喫煙し、苦情が来ても具体的規定が無いと注意できないからである。

 また、第9・10・11条は、わざわざ分ける意味はなく、児童を含む不特定人々が利用する施設の周囲10メートル以内は一律禁煙とし、第8条の自動車内での規定と共に、罰則付きとすべきである。

 日本には、1900(明治33)年に施行された未成年者喫煙禁止法があり、120年以上前に、世界に先駆けて未成年を喫煙の害から守ろうと提案した衆院議員、根本正らの慧眼(けいがん)と功績は特筆に値する。第1条で「満20年に至らざる者は煙草を喫することを得ず」と規定し、続く条文で違反した親権者や代理監督者・販売者に対する罰則を定めている。当時は、受動喫煙の危険性については全く知られていなかったため、受動喫煙防止の条文は見当たらない。
国でも法改正を

 しかし、現在では受動喫煙の主な発生源の副流煙には、主流煙よりもはるかに多い有害物質が含まれており、PM2.5も危険域に達することは医学的には常識である。未成年者を喫煙の害から守るという本法律の趣旨にのっとり、「喫煙の定義に受動喫煙を含む」とすれば、法律により未成年者を受動喫煙から守る事ができる。

 東京都の条例成立を機に、国でも未成年者を受動喫煙から守るべく、未成年者喫煙禁止法の改正と活用を要望する。

 なお、民法で成人の定義が18歳以上に最近改正されたが、この法律は独自に年齢を定めているので、影響を受けない。

 この条例は、対象を子供に限定することにより、受動喫煙被害は子供だけの問題ではないという真実が伝えられない危険性を有している。屈強な大人であっても、受動喫煙で命を奪われる。受動喫煙被害の深刻さを理解していない大人も、平気で完全禁煙でない飲食店を利用している現状がある。完全禁煙でない職場で働く人々、例えば飲食店の従業員や受動喫煙対策がなされていない会社の従業員など、概して弱い立場の人々も、全く守ることができない。厚生労働省研究班の調査でも、日本で毎年1万5000人の非喫煙者が受動喫煙で死亡していると推計しており、人々に対する受動喫煙の暴力性・危険性は、すでに医学的には明白であるからこそ、法律や条例で人々を守る必要がある。

堺市役所本館11階の議会フロアにある喫煙室
 「分煙」や「喫煙室設置」は、受動喫煙被害の深刻さを認識できていない人たちや、弱い立場の従業員が職場で受動喫煙被害を強いられる現状の容認・放置に他ならない。きれいな空気を呼吸し健康を享受することは「基本的人権」であり、職場における回避不可能な受動喫煙被害は「人権侵害」である。罰則付きの法制化は「何人たりとも受動喫煙で死なせない」「職場での受動喫煙被害から全ての労働者を守る」という大原則の実効性担保に、絶対必要である。

 「分煙」を推進したものの、受動喫煙防止ができないことが判明し、完全禁煙となったスペインの例がある。「分煙」を認める事は、日本が世界保健機関世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」FCTC批准国でありながら、五輪・パラリンピックを前にしても誠実に履行できない国として、世界から厳しい批判を受けることになると思われる。

 したがって、本条例とは別に東京都が作る受動喫煙防止条例は、本来なら国が作るべき「分煙を認めず」「例外なし」で「罰則規定付き」の受動喫煙防止法同様、2020年の五輪・パラリンピック開催都市としてふさわしいものでなければならない。

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