「曖昧なやさしさの社会」崩壊



森永 国鉄の民営化の時には、鉄道共済が破綻状態だったんですね。その旧国鉄職員の年金の支払いにタバコの税金を当てているんですよ。だから私は「JRに禁煙を強制する権利はない」って言ったんですけど、JR東日本は聞く耳を持たない。

 私はタクシー会社にも提案したんです。お客がタバコを吸えるタクシーを、タバコから煙が出ているマークの行燈をつけて走らせたらどうですかって。そうしたら、「そんなことをしたら、嫌煙団体が押し寄せて会社はつぶれてしまいます」って言うわけ。

山路 それこそファシズムですよ。JR東海には喫煙車両があるから、それを探して乗るんだけど、この間、時間に遅れそうになって滑り込みセーフで乗り込んで、席に座っていざ吸おうと思ったらタバコを切らしていた。三島で止まるひかり号だったから、車掌さんが三島のキオスクが開いていると思いますからと、わざわざ扉まで案内してくれて、「3分くらい止まりますから、どうぞ」って。ところが、キオスクがもう夜で閉まっていて、車掌さんが申し訳なさそうな顔をしていた。
森永 JR東海はまだましで、JR東日本は全部禁煙なんですよ。それでたばこを吸う唯一の手段は、秋田新幹線と山形新幹線は福島と盛岡で切り離すときに2、3分止まるので、その瞬間にダッシュして、喫煙所でパーッとタバコを吸って戻る。ところが、これがすごく危険で、ちょっとでも遅れたら、荷物だけ先に行っちゃう。

栗原 吸わない人はそういう喫煙者の泡食った姿というのも嫌いなんですよね。喫煙所でせせこましく吸っている姿というのも嫌いだし、あと、副流煙の害がどうこうという統計的な話よりも、匂いが嫌だという人が多いと思うんです。

山路 匂いが嫌だというのなら、タバコだけじゃなくて、加齢臭とかいろいろあるじゃない。

森永 いやいや加齢臭だけじゃなくて、私、通勤電車に乗っていたとき、女の人の香水の匂いで、吐きそうになったことがある。

山路 匂いがイヤだって言われてもねえ。別に匂いで健康被害が及ぶということはないわけだし。

栗原 まあ、加齢臭はしょうがないじゃないですか。でも、タバコは主体的に吸うものですから。

山路 (栗原さんを指して)さっきから隅っこで禁煙者みたいなことを言っているよ。

栗原 だってみんな同じ意見を言っても、しょうがないじゃないですか。(一同爆笑)

森永 私、昔専売公社にいたんですが、受動喫煙の影響を調べる時は、ジュラルミンか何かでできた、もう超完全密閉空間の中で、計測するんです。そうしないと、影響が出ないんですよ。だから、外で吸っていて大きな受動喫煙被害があるというのは、少なくとも病理学的には、まったく立証できないんだと思いますよ。

山森 私、厚生労働省に電話をして聞いたんです。受動喫煙に対して明確な定義がない。では例えば東京ドームの一塁側でたばこを1本吸ったとすると、三塁側の人が受動喫煙の被害を受けるんですかと。そうしたら「そうです」と答えたんです。

山路 ええっ。

森永 だからそこが一番の問題で、もうタバコの微粒子ひと粒たりとも許さないという……。だって世の中、人間が暮らしていれば、騒音にしても、いろんなことで摩擦は起こるわけですよ。かつての日本は、私は「曖昧なやさしさの社会」って呼んでいたんですけど、お互いちょっとずつ我慢をして、みんなで共存しましょうよっていうことだったんですけれど、いつのまにか自分たちの権利を全面的に主張する社会になった。

 例えばアメリカだと、パーティに呼んだ友人が、真冬だったから庭の飛び石が凍り付いていて、滑って転んでけがをした。そうしたらその友人が、招待した側を庭の管理不届きで、裁判で訴えた。これがみんなが権利を主張する社会なんですね。