ここで議論の前提となる、受動喫煙の有害性に関する知見を確認しておきます。

 受動喫煙が健康に悪影響を与えることは科学的に明らかにされており、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのリスクを高めるとされています。

 平成28年8月に国立がん研究センター発表及び厚生労働省より公表された「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(通称「たばこ白書」)によれば、わが国の受動喫煙による年間の超過死亡者数は、少なくとも1万5000人と推計されています。
厚生労働省
厚生労働省
 つまり、受動喫煙を受けなければ、交通事故死の約4倍にあたる年間1万5000人が、これらの疾患で死亡せずに済んだと推計されているのです。このうち乳幼児突然死症候群は年間73人の超過死亡と推計されています。

 また「たばこ白書」によれば、子供の受動喫煙と、乳幼児突然死症候群、喘息(ぜんそく)の既往との関連について「科学的証拠は因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」と判定されています。

 喘息の重症化、喘息発症、肺機能低下、学童期のせき・たん・喘鳴・息切れ、中耳疾患、う蝕(虫歯)との関連については、「因果関係を示唆(レベル2)」と判定されています。

 さらに、厚生省心身障害研究において、「父母共に習慣的喫煙あり」は、「父母共に習慣的喫煙なし」に比して約4.7倍程度乳幼児突然死症候群発症のリスクが高まることが示されています。

 別の研究では、3歳児の喘息様気管支炎は家庭内喫煙がない場合に比べ、母親が喫煙する場合には3倍に増加することが示されているのです。

 このように受動喫煙は、生命の侵害や重篤な健康被害を引き起こすおそれがあります。その上、子供は自らの意思で受動喫煙を避けることが困難であり、受動喫煙から保護する必要性が特に高い存在です。

 こうした点で、「児童虐待」との共通性があると考えています。

 もっとも、子供の受動喫煙が、現時点で、児童虐待防止法第2条の「児童虐待」の定義に該当していると言っているわけではありません。仮に、同法上の「児童虐待」の定義に該当すれば、発見者の通告義務(同法第6条)、児童相談所による保護(第8条)、行政による立ち入り調査等(第9条)などの規定が適用されますが、この条例案は、法律上の「児童虐待」の定義を変更するものでもありませんし、また上記のような義務や行政措置を導入するものでもありません。

 この条例案は、罰則を設けず、まず啓発を進めていくものです。児童虐待防止法のような通告義務や立ち入り調査なども設けていません。「法は家庭に入らず」という思想や反対意見にも配慮した、バランスのとれた内容と考えています。