12月26日、理研は記者会見し、「STAP細胞はES細胞の混入」であったと発表した。また、小保方晴子元研究員らが、『ネーチャー』の論文で発表した図や表の多くで、オリジナルデータが存在せず、実験自体が本当に行われていない可能性に言及した。今回の理研の調査で、ES細胞を混入させた人物については同定できなかったようだが、STAP細胞の研究は振り出しに戻ったことになる。
 2014年1月29日、小保方氏が割烹着お姿で記者会見してから、一年弱でSTAP細胞研究は、世界の科学史に残る不祥事となってしまった。我が国の科学界の信頼を大きく損ねたことになる。

 今後、小保方氏や他の研究員の理研内部での処分、研究費不正使用に関する民事責任が検討される。さらに、今回の記者会見により、理研だけでは真相究明が出来なかったことが明らかとなったので、世論次第では「偽計業務妨害」などの理由で刑事告発される可能性もある。

 一体、STAP細胞騒動とは何だったのだろう。我々は、この事件から何を学べばいいのだろうか。

 私にとっても、この事件は人ごとではなかった。合計68本のテレビ番組に出演し、コメントした。テレビでコメントする私の姿が、雑誌の4コマ漫画で取り上げられたこともあった。勿論、生まれて初めての経験である。

 きっかけは、3月10日にテレビ会社に勤める知人からかかってきた電話だ。

 「専門家が誰もコメントしてくれず、頼れる人がいません。(テレビで)話してくれませんか」。

 勿論、知人の要求は分かっている。小保方氏を批判して欲しいのだ。

 この方には、これまで随分とお世話になっていた。無碍に断るわけにはいかない。

 番組の反響は、私の予想を超えていた。小保方氏を批判すると、大学や研究室に電話が殺到したのだ。お叱りの内容は「小保方さんを苛めないで」から、「日本の国富を流出させるのか」まで多岐にわたった。

 同時に、他局からも出演依頼の電話が殺到した。よほど、コメントしてくれる専門家がいなかったのだろう。当時、マスコミで小保方氏を批判すれば、世間の反発を受けるのは明らかだった。多くの研究者が引き受けなかったのは無理もない。

 実は、私がテレビ出演を決めた理由は、旧知のテレビ関係者への義理からだけではない。ボストン時代の小保方氏を知る女性研究者から、色んな話を聞いていたからだ。

 彼女は誠実な研究者だ。私は彼女の情報を信用した。後日、様々な報道を通じて明らかになった事実とも符合する。
 ここで全てを書くことはできないが、彼女は「小保方さんが実験している姿はあまり見たことがない」と言い、「彼女はまともな研究者ではない」と強調した。

 さらに、彼女が言った「小保方さんのような女性研究者が出ることで、真面目に研究している女性たちが被害を蒙る。なぜ、男の先生方は、すべて真に受けてしまったのでしょう」という言葉が印象に残った。いまこそ、社会に意見を言わねばならないと思った。

 STAP細胞騒動では、大勢に被害者が出た。故笹井芳樹氏は勿論、理研、早稲田大学、ハーバード大学の指導者たちは、世界の科学界から信頼を失ってしまった。理研の再生科学総合研究センター(CDB)の予算要求は対前年比で45%減だという。多くの雇用が失われる。

 論文盗用やデータ改竄について、小保方氏本人にどの程度罪の意識があったかはわからない。ただ、小保方氏の周囲にいる大勢の男性が不幸になったことは間違いない。案外、年老いた豊臣秀吉を振り回した淀君もこんな感じだったのかも知れない。

 では、このような事件の再発を予防するには、どうすればいいだろうか。現在、理研はガバナンスの再構築について議論を進めている。ただ、この議論で抜け落ちているのは、「研究者も人間である」という視点ではなかろうか。人は欲もあれば、色も好む。皆さんも信頼する女性の部下が画期的なデータをもって来たら、どの程度、批判的に吟味できるだろうか。私には自信がない。

 前出の女性研究者は言う。「日本は女性研究者の登用が遅れている。もし、女性の部長が一人でもいて、彼女の論文をチェックしていたら、こんなことにはならなかった。」確かにそうだろう。小保方氏に振り回されたのは、全て著名な男性研究者ばかりだ。

 昨今、安倍政権はウーマノミクスと言って、女性の登用に熱心だ。ところが、我が国の女性研究者の割合は約12%(07年現在、総務省発表)で、欧米先進国の30-40%と比較してはるかに低い。理研に関しても、6人の理事の中で女性は一人だけだ。このことには、色んな理由があるだろう。ただ、今こそ、STAP細胞事件を小保方氏個人や理研の組織の問題に歪曲せず、日本の科学界での人材登用にまでひろめて議論すべきではなかろうか。