「究極の自由国家」アメリカが抜け出せない銃社会の病理

『中岡望』

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中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)

 アメリカは銃社会である。アメリカ全体での銃保有数は2億6500万丁に達しており、その結果、銃による犯罪が多発している。銃犯罪の統計を取っている団体「ガン・バイオレンス」の調査によれば、今年1月から10月4日までに銃による事件の発生は4万6828件となっている。

 その中で4人以上が負傷あるいは殺害された銃乱射件数は273件に及ぶ。その中には10月1日に起こったラスベガスの乱射事件も含まれている。死亡者数は1万1720人。この数字には、毎年2万件を超える銃による自殺者の数は含まれていない。

 ラスベガスの乱射事件はアメリカ史上最悪の事件であった。死者の数は58人と推定され、その数は過去最多である。過去において2番目に多い犠牲者を出したのは2016年6月12日に起きたフロリダ州オーランドでの乱射事件で、犠牲者の数は49人であった。3番目が2007年4月16日のヴァージニア州ブラックスバーグの乱射事件で、死者は32人。これに次ぐのが2012年12月14日のコネチカット州ニュータウンの乱射事件で、死者の数は27人にのぼっている。

 銃乱射事件は近年増える傾向にあり、上記の大量殺戮事件以外にも、2016年7月7日のテキサス州ダラスで起こった乱射事件で5人の警察官が殺害されるなど、アメリカでは日常的に起きているといっても過言ではない。

米西部ラスベガスで、銃乱射事件の犠牲者を悼む女性ら
=3日(共同)
 そして銃乱射事件が起こるたびに、アメリカでは銃規制を巡る議論が起こっている。だが、銃保有を禁止するという議論はほとんど出てこないのが現状だ。リベラル派は銃規制強化を主張し、保守派が規制強化に反対する。ただ、リベラル派も銃の全面規制を主張するわけではないのだ。

 もちろん、ラスベガスの乱射事件後にも議論が起こった。民主党といったリベラル派は銃規制の強化を求める声を挙げた。だが、保守派や共和党、トランプ政権の反応は極めて鈍い。事件後、トランプ大統領は犠牲者に哀悼の意を表したが、銃規制に関して一言も言及しなかった。

 ホワイトハウスのサンダース報道官も「銃政策に関する議論が起こると思うが、現在、議論を行う時ではない」と、銃規制強化の議論を始めることさえ「時期尚早」であると消極的な姿勢を示した。また、共和党のマコーネル上院院内総務も「今は国民が喪に服し祈る時だ」と、銃規制強化に言及することはなかった。

 それどころか、共和党のジョン・コーンイン上院議員は「ラスベガスの銃乱射事件を政治化するのは胸糞が悪い」と、銃規制強化を主張するリベラル派を批判している。
左派でも銃保有の禁止は主張しない

 一方、民主党のクリス・マーフィー上院議員は議会が銃規制強化に関する法案成立を怠っていると批判する声明を発表。議会は早急に対応すべきだと訴え、自らは銃購入者の経歴調査を強化する法案を提出すると語っている。民主党の指導者であるナンシー・ペロシ下院議員もポール・ライアン下院議長に対して経歴調査を強化する法案の採決を行い、同時に銃に関連する犯罪を抑制するために特別委員会を設置するように要求した。
米ラスベガス銃乱射事件の犠牲者を悼み、ホワイトハウスで黙とうするトランプ大統領夫妻(手前左)とペンス副大統領夫妻=2日、ワシントン(ロイター=共同)
 ところが、アメリカ議会では現在、まったく逆の法案が審議されている。それはサイレンサー(銃の消音装置)購入の規制緩和を求める法案である。同法案は民主党が反対し、共和党が賛成している。

 銃保有が禁止されている日本から見れば、アメリカで行われている議論は理解しにくい。先に指摘したように、リベラル派は銃規制強化を求めることはあっても、銃保有を禁止すべきだとは主張していないことだ。その背景を理解するには、アメリカ人の銃に対する意識を理解する必要がある。

 世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が実施したアメリカ国民の銃に対する意識調査結果(2017年6月)の結果によると、何らかの形で銃を保有していると答えた比率は42%に達している。また、今まで一度も銃を持ったことはないという回答は55%であった。そして銃保有者の66%が複数の銃を保有していると回答。29%が5丁以上の銃を保有している。

 さらに注目されるのは、銃保有の理由である。銃保有者の74%が「自由を守る」ために必要だと答えている。中でも特徴的なのは、白人男性の48%が銃を保有していると答えているのに対して、非白人男性では24%に過ぎないということだ。非白人女性ではわずか16%に過ぎない。地域で見れば、南部での銃保有比率は高い。南部では、父親が息子に銃の撃ち方を教えるのは日常的なことだという。

 銃保有の理由では、自己防御が67%で最も多く、狩りが38%、スポーツ射撃が30%、銃収集が13%。要は、銃保有者の大多数は自分を守るために銃が必要だと考えているのである。さらに銃保有者の38%が自宅で常に銃弾を装填し、すぐに取り出せる場所に置いていると答えている。
銃保有権利は憲法で保障されている

 さらに興味深い事実は、銃保有者の19%が、銃規制に反対する全米ライフル協会のメンバーであることだ。同協会の会員数は500万人に達している。同協会は潤沢な資金を背景に、銃規制強化を阻止するために強力な議会工作をしている団体である。同時に共和党やトランプ大統領の最大の政治献金団体でもある。共和党が銃規制に消極的な態度を取る理由の一つが、同協会とのつながりにある。

 そもそも、アメリカ人にとって銃保有は歴史的にも特別な意味を持っている。1791年に成立した憲法修正条項(1条から10条)は「権利章典」と呼ばれ、アメリカ民主主義の基本になっている。修正第1条では信教・言論・出版・集会の自由と国民の請願権を規定している。

 実は修正第2条は「武器保有権利」について規定している。そこには「規律ある民兵団は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し、携帯する権利は侵してはならない」(米大使館訳)と書かれている。要するに民間人が銃を携帯する権利を保障しているのである。もしリベラル派が銃保有の禁止を求めるならば、この条項を修正する必要がある。

 今まで数多くの銃規制法が成立しているが、その多くはテクニカルな規制にとどまっているのも、修正第2条が存在するからである。1993年にレーガン大統領暗殺未遂の際、ブレイデフィ報道官が銃弾を浴びて半身不随になった事件が起こった。それを契機に「ブレイデフィ法」が成立した。

 同法で規制されたのは銃を販売する際の身元調査の実施と重犯罪者、精神病者、麻薬中毒者、未成年に対する銃販売だけであり、銃保有そのものの規制ではなかった。また憲法による規定以外に、各州は独自の銃規制を行っている。

 たとえば、マサチューセッツ州では銃を保有するためには許可書が必要であり、ニューヨーク市やワシントンDCでは銃保有を禁止する動きもみられる。ただ、最高裁は2008年に無許可で銃保有、携帯を禁止す法律の合法性を巡る係争であるワシントンDC対ヘラー裁判で、修正第2条は有効であり、ワシントンDCの法律は憲法違反であるとの判断を下している。
トーマス・ジェファーソン像(iStock)
 そして、アメリカの銃保有問題を理解するには、修正第2条の持つ意味をよく知る必要がある。独立宣言を書いたトーマス・ジェファーソンは「自由人は武器の使用を制限されるべきではない」と主張している。
自由を守る=銃保有

 また、独立戦争当時、各州はそれぞれ法律で個人の銃所有の権利を認めていた。建国の父たちは、「政治的な自由(liberty)」を守るために銃所有の権利を認めるべきだと考えていた。最初に憲法を批准したニューハンプシャー州は、批准の条件として「議会は市民が実際に反乱を起こさない限り、武装解除してはならない」と主張している。建国当初、国民に「自由を守る=個人の銃保有」という概念が刷り込まれたのである。

 修正第2条が制定されたのは、アメリカがまだ国家として十分に確立していない時代であり、西部劇にみられるように領土を拡大する過程で武器保有は不可欠であった。だが、近代国家になった後も、修正第2条の見直しは行われなかった。むしろ各州で様々な規制の試みが行われたが、上述のように最高裁は修正第2条の有効性を認める判決を出している。

 そしてその後、銃規制の問題は一種のイデオロギー問題へと変わっていく。銃規制に反対する保守的な団体や共和党は、銃規制は修正第2条に反する個人の権利を侵害するもので、眼前の銃による犠牲者の姿よりも、修正第2条を守り、個人の自由を擁護すべきだと主張するようになる。
ホワイトハウスで声明を発表するトランプ米大統領=2日(ロイター=共同)
 保守派は銃規制問題を憲法問題にすり替えるようになり、銃規制の強化を主張するリベラル派も修正第2条に踏み込んだ議論を避ける傾向がある。その結果、銃規制といっても銃保有の際の購入者のチェックなどテクニカルな議論で終わってしまっているのが現状だ。だが、銃購入者の身元調査さえ十分に実現していない。2013年に広範な身元調査を義務付ける法案が議会に提出されたが、成立しなかった。

 2014年にオバマ大統領は「世論が議会に銃政策の変更を求めない限り、何も変わらないだろう」と語っている。銃乱射事件が起こると銃規制を求める声は強くなるが、やがて忘れられる。そうしたことが繰り返されているだけで、抜本的な問題解決は進まないのが現実である。アメリカでは銃問題は単に犯罪の問題ではなく、政治問題であり、憲法問題であり、自由の問題なのである。

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