松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者)

 安倍晋三首相による解散・総選挙は唐突に始まったが、その後の「小池劇場」が生み出した政界再編の動きは目まぐるしく、大方の予想を超える激動的なものだった。ただ、現時点で冷静に振り返ってみると、野党側の混乱の背景には安倍政権への対決軸をどう構築するか、その準備が成熟していなかったことが大きかったように思う。とりわけ安全保障に関する対決軸が未成熟と言わざるを得ない。本稿ではその点について考察してみたい。

 小池百合子東京都知事が希望の党の公認を求める民進党出身候補に対して、憲法改正と新安保法制への賛成が条件であり、それが飲めない人を「排除する」と明言したことは、今回の経緯の核心をなす問題だと感じる。希望の党の動きがなければ、今回の選挙は、新安保法制を踏まえて北朝鮮情勢などに対処するという政権側と、新安保法制を廃止する枠内で対処するという野党側が、正面からぶつかる二項対立の構図になる可能性があった。小池発言は、結果だけから見れば、民進党の新安保法制に対する「反対」勢力の弱さを露呈させ、想定されていた対決構図が浮上するのを押しとどめるという役割を担うことになったのである。

 ただ、これは小池知事にグチを言っても仕方のないことである。野党側にも問題があるからだ。

 では、何が問題だったのか。端的に言えば、新安保法制に反対したとしても、どんな安全保障政策で対処すればいいのか、という対案に説得力が欠けていたことである。野党間の政策協議で一致していたのは「新安保法制に反対」ということだけであり、新安保法制廃止後の国防政策をどうするのかということへの言及はない。つまり、建設的な防衛政策が法案反対野党にはなかったということである。

 野党共闘を市民の側から主導したのは「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)である。その市民連合は9月26日、民進・自由・社民・共産の野党4党に対し、衆院選での「野党の戦い方と政策に関する要望書」を提出した。そこにも9条改正への「反対」や新安保法制などの「白紙撤回」はあったが、防衛政策での要望と呼べるようなものは見られなかった。
「市民連合」と面会し、プラカードを掲げる(左2人目から)共産党の小池書記局長、立憲民主党の福山幹事長、社民党の吉田党首=10月7日、東京都千代田区
「市民連合」と面会し、プラカードを掲げる(左2人目から)共産党の小池書記局長、立憲民主党の福山幹事長、社民党の吉田党首=2017年10月、東京都千代田区
 いま、わが国の眼前で進行しているのは、北朝鮮による核ミサイル開発である。有権者の多くが関心を持っているのに、この問題が政策協議で議題になったとも聞かないし、市民運動も言及しない。国民意識と野党共闘の間には深い溝があったわけだ。

 この間、北朝鮮の「完全な破壊」を叫ぶトランプ政権の下で、安倍政権がそれに追随し、新安保法制に基づいて米艦防護などを実施している状況は、有事の際には日本も巻き込まれる危険を示すものであり、この法制の「廃止」には安全保障上の危機が生じる。しかし、法律を廃止したからといって、北朝鮮の核ミサイルに対処できる態勢ができるわけではない。自民党の一部にあるような敵基地攻撃論にはくみしないにせよ、ミサイル防衛システムを整備、改良するという程度の政策も打ち出せないのが一連の野党共闘であった。