塚崎公義 (久留米大学商学部教授)


 アベノミクスで景気が回復したことには、疑いありませんが、過去30年以上にわたって景気を見続けてきた筆者にとって、不思議なことが非常に多い景気回復でありました。今後のことを考えるためにも、なぜ不思議なことが起きたのかを振り返っておくことが重要と考えて、本稿にまとめてみました。
「アベノミクス」始まって以来の高値を一時超えた日経平均株価を示す電光掲示板=10月11日、大阪市中央区(宮沢宗士郎撮影)
「アベノミクス」始まって以来の高値を一時超えた日経平均株価を示す電光掲示板=2017年10月、大阪市中央区(宮沢宗士郎撮影)
 通常の金融緩和というのは、日銀が大量の資金を供給することで市場金利を押し下げ、それによって設備投資等を刺激して景気を回復させようというものです。しかし、ゼロ金利になると、金融を緩和しても金利がそれ以上は下がりません(マイナス金利のことは、忘れましょう)。それならば、金融緩和は効かないはずです。

 ゼロ金利下で日銀が銀行から国債を購入しても、銀行は融資先が見つからないので、日銀から受け取った札束をそっくり日銀に貯金します(準備預金と呼びます)。従って、資金は世の中には出回りません。銀行の国債保有(銀行の政府への貸出)が減り、準備預金(銀行の日銀への貸出)と日銀の国債保有(日銀の政府への貸出)が増えた、というだけです。実際、白川総裁の時は、金融を緩和しても何も起きませんでした。

 しかし、黒田緩和が始まると、株価(およびドル、以下同様)が値上がりしました。それは、一部の投資家(本稿では黒田教信者と呼びます)が「金融が緩和されると世の中に資金が出回るから株価が上がるはずだ」と考えて株に買い注文を出したからです。株価は人々が噂を信じて買い注文を出せば上がるので、その噂が真実であるか否かは関係ないのです。そうなると、黒田教信者でない投資家も、「黒田教信者が買い注文を出しているから、株価は上がるだろう」と考えて株の買い注文を出したので、株価は一層上がったのです。

 医者が患者に小麦粉を渡して「よく効く薬だ」と言うと、患者の病気が治る場合があり、これを「偽薬効果」と呼んでいます。今回も、効くはずのない政策を「効く」と宣伝しながら実行したら、本当に効いてしまったというわけですから、まさに偽薬効果であったと言えるでしょう。

 黒田総裁が、本当に効くと信じていたのか、効かないと知りながら効くと言っていたのかわかりません。後者であれば、彼を嘘つきと呼ぶことも名医と呼ぶこともできるでしょうが、本稿では結果重視で「名医」と呼んでおきましょう。