日銀の金融政策は、日銀法で政府からの独立性が守られている。たとえ首相であっても、5年間の任期の途中で、総裁の首をすげ替えるわけにはいかない。

 つまり次期衆院選の結果は、日銀総裁人事を通じて、金融政策の行方に決定的な影響を与える可能性があるのだ。市場では、安倍退陣となれば「円高、株安」に向かうとの観測も出始めている。
  
 異次元緩和の目標は、物価が持続的に下落するデフレを解消することにある。裏を返せば、デフレは、持続的に円という通貨の価値が向上していることを意味する。円に対する過剰な信任を破壊し、モノやサービスへの欲望を取り戻すことが、その狙いだ。そのために、日銀が国債を大量に買い込み、円の供給を爆発的に増やすことで円の価値を破壊することが、異次元緩和の要諦といえるだろう。

 黒田は2013年春に、デフレ脱却の旗印として2年で2%の物価目標を達成することを示した。しかし、物価目標の達成時期は繰り返し先送りされ、今年7月の「展望レポート」では「19年度ごろ」とされている。デフレ脱却の見通しは不透明なままなのだ。

 「賃金の上昇が価格の上昇に転嫁されるのを控えるような行動がとられている面もあります」

 黒田は物価が上昇しない理由について、9月21日の金融政策決定会合後の記者会見でこう指摘した。
G20財務相・中央銀行総裁会議の開幕を前に、取材に応じる日銀の黒田東彦総裁=12日、ワシントン(共同)
G20財務相・中央銀行総裁会議の開幕を前に、取材に応じる日銀の黒田東彦総裁=2017年10月12日、ワシントン(共同)
 その背景について、日銀は1年前に公表した「総括的な検証」で「適合的な予想形成」という分析を示した。過去のデフレに引きずられて企業や消費者が行動するため、異次元金融緩和を実施しても人々の物価観を転換できなかったという説明だ。1年後の今も、根強いデフレマインドから抜け出せていないのだ。

 黒田は総括的な検証と合わせて昨年9月、異次元金融緩和とマイナス金利10年物国債の利回りをゼロ近辺に誘導する長期金利の目標を導入した。伝統的な金融政策では、中央銀行が操作するのは短期金利で、長期金利は操作できないと考えられていただけに、異例の政策といえる。

 この政策の枠組みでは、日銀の国債購入は政府の国債発行の増減と表裏一体となり、金融政策は事実上、政府の財政政策に従属する形になった。

 なぜなら長期金利の行方を左右する最大のファクターは、政府が発行する「10年物国債」の量だからだ。政府が財政再建を進めて、国債の発行量を絞れば、長期金利は下落傾向を示し、財政の拡大を進めれば、長期金利は上昇傾向を描く。結局、長期金利をゼロ近辺に誘導するという目標は、政府の国債発行の動きに連動するしかなくなるのだ。

 黒田は、国債購入のげたを政府に預けてしまったのだ。市場では、これを「黒田の敗北宣言」と受け止め、この段階で、異次元緩和は事実上の終止符を打ち、出口に向かって舵を切り始めたと受け止められている。