著者 mekuriya(東京都)
 
 東日本大震災・福島原発事故から3年、日本経済はその打撃を克服しつつもあり、克服しつつもないかのように思える。ここで「2014年の日本経済を振り返る」 と題して、アベノミクスを取り巻く諸問題を論点整理し翌年の日本経済を展望することで、アベノミクスが2015年に解決すべき課題が見えてくるように思う。いわば日本経済の「見える化」である。僭越ながら本稿をその一助として捧げたい。諸兄の賢明な議論を誘発できたなら、本稿の役目は果たしたと考えたい。

(1)上期停滞するも下期上昇基調に転じた日経平均株価


日経平均資料室:日次・月次・年次データ - 日経平均プロフィル

 1月6日(月)約239円安の15,908円で引けた日経平均株価は、昨年末の過熱感を調整し、その後もアベノミクスに対して懐疑感を示すかのように停滞を続けたが、下期に上昇基調に転じ、2014年は1万8千円台を窺う水準で終われそうである。株価自体がアベノミクスの目標にならないのは当然としても、それがアベノミクスに対する市場の評価であると受け取っても間違いではあるまい。株価上昇は、個人投資家に直接の恩恵があるばかりでなく、銀行・証券・投信・生損保・公的年金・年金基金・事業法人など株式を投資有価証券勘定に組み込む機関投資家の財務状況を改善させることで、誰にも間接的な恩恵があるものである。また「起業大国 No.1の実現」を掲げるアベノミクスに対し東証を始めとする日本取引所グループが起業教育イベント『JPX起業体験プログラム2014』を開催するなど力強くアジャストする姿勢を見せているのは心強い。2015年は、株式市場のそうした機能が改めて評価される年になるのではないか。持続的な好循環が生まれるかどうか。来年も注視すべき指標となるだろう。
1万8000円台にまで回復した日経平均株価を示すボード=12月8日午前、東京都中央区

(2)円安進行が止まらない為替レート


USドル/円の為替レートの推移 ? 世界経済のネタ帳

 2011年10月頃の76円/ドルを円高のピークとして揉み合い期と加速期を繰り返しながらも円安進行が2014年も一貫して継続している事実は否定しようがない。為替レートは2014年8月まで揉み合った後、一気に円安を加速させ12月は120円前後の狭いレンジで揉み合っている。
為替レート変動の要因は非常に多岐に渡るものであるが、2011年10月以降の円安トレンドに原発再稼働遅れに起因する燃料費増大が大きなウエイトを占めていると考えられる。その微変動には多くの市場参加者が関わっているといえど、大きなトレンドを決するのは輸出業者・輸入業者の実需売買なのである。政府・日銀とも為替レートを直接的に操作するのは不可能であり、また政策目標にも掲げてはいない。しかし、その変動が何に起因するのか、その変動が日本経済にどんな影響を及ぼしているかが極めて重要なテーマである事に違いはない。円安はアベノミクスの功罪ではなく、円安がアベノミクスの追い風か逆風かという視点が重要だと指摘しているつもりだ。吉野家が12月9日に牛丼値上げを発表したことで消費者も円安の弊害に気づきつつあるだろうと思うが、多くの原材料を輸入に頼る日本にとって円安が福音である訳がない。オイルショック克服後の日本は長く円高基調が続いただけに円高の弊害ばかりが過度に宣伝され、消費者は円高=悪と刷り込まれてしまっていたようである。原油急落を奇貨として外為市場は踊り場局面に入ったかのように見えるが、翌年はどうなるか。論壇のその評価は錯綜しているかにも見えるが、より仔細な分析を続けなければなるまい。円安進行に関する筆者の見解は本稿末尾に補稿【「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」は間違いだ!」】として掲載させていただく。
1ドル=121円台まで下落した円相場を表示するモニター=12月5日夜、東京都港区

(3)拡大一方の貿易赤字に歯止めはかかったか


時事ドットコム:【図解・経済】貿易収支の推移(最新)

 オイルショック克服後の日本はリーマン・ショックなどの一時的影響を除いて、ほぼ一貫して貿易収支は黒字であった。ところが東日本大震災・福島原発事故を契機に一転して貿易赤字に転落し、しかも赤字額が単調に増加し続けた。これまた原発再稼働遅れに起因する燃料輸入増が大きく影響している。一方、財務省12月25日報道発表用資料・平 成2 6年1 1月分貿易統計によると前年同月比で輸出増・輸入減が示され輸出入均衡には遠く及ばないものの単調な赤字額増大には歯止めがかかったかにも見える。それが一時的なものか長期的な趨勢となるか翌年も注視せざるを得ない。経常収支は黒字だといった論調で貿易赤字を軽視している向きもあるようだが、筆者は同意できない。それは日本の貿易構造の非対称性を見落としているのではないか。筆者は貿易赤字→円安進行→(始めに戻る)のスパイラル現象の発生を強く疑っている。それについては稿を改めて詳しく論じてみたい。

(4)消費税率が5%から8%に~その影響は?


 4月1日から消費税率が5%から8%に増税されたことは改めて指摘するまでもなかろう。消費税増税を機に主に中小小売業者に便乗値上げの動きがあったかのように喧伝されているがそうではない。それは増税前の円安進行に起因する原材料価格高騰の消費者価格への転嫁と捉えるべきである。くだけていえば赤字に泣いていた中小業者が消費税増税を好機にようやく立ち直りのチャンスを掴んだということなのである。また増税以前の住宅・自動車に代表される高額消費財の駆け込み需要の反動で、増税後はその分個人消費が落ち込んだが、それは当然のことであって、ただちに消費税増税の悪影響とは捉えられない。いずれにせよ消費税増税の悪影響ばかりが過度に喧伝される一方で貿易赤字・円安の弊害が軽視されている現状は奇怪千万。消費税増税実施の成否に議論の余地があるといえど、視野狭窄は許されない。なお今回の増税の評価に関しては筆者はまだ時間がかかると考えている。拙速に成否を論じる意義も感じない。

(5)逆オイルショック!?原油急落の影響は?


「逆オイルショック」が再来?シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変

 2014/07頃まで2011福島原発事故を契機とした世界的な反原発感情盛り上がりの影響による需要増を主因として原油価格は100ドル/バレルを超える高値圏を推移していた。ところがここに来て(12/28現在)、WTI原油先物は55ドル/バレルまで急落(暴落というべきか)しているのである。消費者への還元が無い、または遅いといった声も聞かれるがそうではない。オイルショックを教訓とした日本は3ヶ月前後の備蓄体制を完備した上に、安定供給を重視した長期相対取引化、調達ルートの多様化などの施策を実施しているので逆オイルショックであってもその反映にはタイムラグが生じるのである。それゆえにサウジアラビア・アラブ首長国連邦などが日本の輸入相手国上位に定着している訳だ。ここでは急落の背景はあえて論じないが、必ずしも一時的要因とも言い切れないことは指摘しておく。直近に見られる貿易赤字の縮小、円安進行の停滞といった現象に原油急落が影響している可能性が大である。もしこれが一時的でないなら、翌年は原油急落の影響がより広範囲に観測されると思われる。それは日本経済にとって福音であるに違いないが、その背景も考え合わせればそうともいえまい。もし中東動乱が日本の輸入相手国にまで再燃・波及すれば日本とて無事では済まないからだ。ここでも国内問題だけに囚われず、国際情勢に広く眼を向けなければならない。12月16日に翌1月の中東歴訪を表明した安部首相もそうした問題意識をお持ちなのではなかろうか。

首相、来年1月に中東歴訪へ 「地球儀俯瞰外交」再開 ? 産経ニュース

(6)完全失業率・有効求人倍率の改善と裏腹に低下する実質賃金


時事ドットコム:【図解・経済】最近の完全失業率と有効求人倍率
「実質賃金」が16カ月連続で減少、前年比2.8%減 - 10月 | マイナビニュース

 「良いニュースと悪いニュースがあります」といったジョークを連想する。労働市場の需給は概ね改善傾向と捉えられるのに対し、名目賃金はわずかに上昇しつつも実質賃金は下落しているというのである。この現象をどう理解すべきか。筆者はただちに説明する準備はないが、労使間になんらかのミスマッチが生じていると考える。例えば使が求める技能と労が提供できる技能が合っていないといったことである。バスケットボールに例えれば、コーチはセンターが欲しいのに入部希望者はガードばかりといった話だ。政労使それぞれにミスマッチを解消する努力が求められているように思われる。時が解決する問題ではあるまい。有識者による詳細な分析が待たれる。アベノミクスの本格浮揚を妨げる問題となりかねないからだ。

(7)期待はずれのGDP成長率


2014(平成26)年7-9月期・2次速報(2014(平成26)年12月8日公表) 

 内閣府が12月8日に公表した四半期別GDP速報(2014(平成26)年7-9月期・2次速報)は、我々を失望させる数値であった。いや11月17日の1次速報でもそうであった。特に目立つのが民間住宅の落ち込みである。これが消費税増税に前後する需要先食いの反動現象で説明できるのかどうか直ちに判断することはできない。また民間在庫品増加も大きなマイナス値を示している。これは消費税増税前の駆け込み需要効果を本格的景気回復と見誤った生産者の判断ミスによる過剰生産として説明可能とも思えるが、これも直ちにそうだと断言する準備がない。アベノミクスの観光立国政策による訪日外客が余剰在庫を購入してくれれば話は旨すぎるが、なんともいえない。いずれにせよ期待はずれのGDP成長率を消費税増税の失敗に結びつける議論は余りにも短絡的であり、為にする為の議論に思えてならない。たかが3%の増税率よりも、はるかに大きなレンジで動いている為替レートの存在を見落としてはならない。化石資源・鉱物資源・食料品といった国内産品で代替不可能な必須原材料を海外からの輸入に頼る日本経済の根本的構造をいまさら指摘しなければならないのだろうか。逆に言えばアベノミクスがフォーカスすべき課題は、日本の貿易構造の構造改革ではあるまいか。国内産品で代替不可能とは書いたが、本当にそうだろうか。所与の条件と決めつけず、大胆にメスを入れる取組が必要であることをGDP成長率が示唆しているのではなかろうか。なんにせよ、それみたことかと囃し立てるだけなら猿にでもできることだ。また多くのエコノミストが、このGDP成長率を予想も説明もできなかったことは付記せざるを得ない。もっとも人様を論うつもりは全くない。それだけ日本経済は複雑怪奇で難解だと改めて認識する他ないというまでだ。
2014年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値の発表を受けて記者会見する甘利明経済再生担当相。消費増税について「再増税によって景気が失速し、デフレに戻ってはいけない」と述べ、慎重な姿勢を示した=2014年11月17日(蔵賢斗撮影)

(8)消費税増税先送りとアベノミクス解散


 ここでの消費税増税先送りとは、11月17日のGDP1次速報を受けた安部首相の消費税率10%への引き上げを18カ月延期するという判断のことである。消費税増税先送りに関しては、先立って賛成論・反対論の論議が喧しいものがあったが、ここでは委細に触れない。また本稿ではその是非を論じるつもりもない。とにもかくにも、かくして安部首相は国民の信を問うべく衆議院解散に及んだ。安部首相の真意を詮索する向きもあろうが、本稿ではそれに与する意義を認めない。ここで指摘しておきたいのは、アベノミクスに対峙すべき野党が日本経済に対する問題意識を何ら示すことができなかったということだけだ。対案を提出するどころか、アベノミクスに瑣末な批判を加えるだけで精一杯ではなかったか。打ち出の小槌じゃあるまいし、経済政策というものは「一振りすれば、ほらご覧のとおり」とは参らぬ。また選挙対策で取ってつけたような思いつきで国民に迎合すべきものでもない。解散になってから慌てふためくとは余りにも情けなさすぎる。少々筆が過ぎただろうか。

(9)第47回衆院選と第3次安倍内閣発足~有権者はどう審判したのか


【安倍首相会見(上)】「この道をぶれることなく進む」(1/3ページ) - 産経ニュース

 かくして第47回衆議院議員総選挙は、大きな変動もなく自民党公明党連立政権が引き続き政権運営を担う結果を導いた。庶民には恩恵が無いという不満感を否定できないまでも、そうはいっても安倍政権に託すしかあるまいといったところが国民の総意ではなかっただろうか。その低投票率は、選挙戦の有り様が有権者の期待に応えられなかったという事実を意味しているようにも感じられる。しかしそれは「国民が主体者意識を持つ契機になれば良いが」と密かに考えていた筆者の期待が失望に終わったことも意味する。国民の意識革命なくしてアベノミクスの成功は覚束ないと考えるからである。ともあれ今回の選挙結果は、ごく一部の近隣諸国を例外として海外からは日本の有権者は判断を誤らなかったと一定の評価を得たもののように思える。とはいえ、やはり第三次安倍内閣が乗り出す海は決して平穏な内海ではない。ともあれ安部首相が決意を新たに経済政策のかじ取りに意欲と自信を示してくれたのは喜ばしい。

(10)2015年度予算編成本格化


第3次安倍内閣発足 2015年度予算編成本格化 医療・介護の歳出抑制は必至 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 選挙を挟んだ関係で、例年なら年内に目処がつく翌年度の予算編成作業が越年することとなった。本稿では日本地下鉄協会が掲載した記事を示すに留める。
平成27年度予算編成の基本方針(案)


補稿「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」は間違いだ!


企業や家計にとって朗報の原油安を円安で打ち消す日銀の愚策|野口悠紀雄 緊急連載・アベノミクス最後の博打|ダイヤモンド・オンライン
 
 これなどは、その主張自体は健全に見えるが隠された前提に間違いがある、演繹における非形式的誤謬の典型である。隠された前提が「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」である。野口氏に限らず、今般の円安進行が日銀の金融緩和政策に因るものと思い込んでいる論者が少なくないようである。

 アベノミクスはデフレ基調脱却を課題の一つに掲げ、日銀はアベノミクスに協力的姿勢を取っている。この基本認識に輸入デフレ論(安価な輸入品によってデフレが起こる)を組み合わせれば、「輸入インフレによってデフレ基調脱却は可能なので日銀は円安誘導を図っている」といった命題を抽出可能なように思える。また安倍政権も当初は円安の進行を歓迎すべき事態だと認識していた節があり、それが間違った命題を図らずも裏打ちしてしまったといえる。

 しかし日銀は輸入デフレ論に与する認識はなんら示していないのである。

2%の「物価安定の目標」と「量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japan

 日銀は円高にするとも円安にするとも言明したことはないし、金融緩和政策によって円安になるとも円安にするとも宣言したこともない。日銀が言明しているのは、2%の物価安定目標を達成する為の手段として金融緩和政策を実施するということだけである。

 では今般の円安進行は何に起因するのか。それは外為市場における実需円買い・実需円売りのバランスが実需円売り優勢(一方的な実需売り増大基調)に変わったことに起因するのである。日銀の金融緩和政策が間接的に為替レートの短期的微変動に関わっていないとまではいえないが、だからといって日銀によって円安が進行したとは到底評することはできない。
 
特集 貿易赤字が拡大中!!! その原因と影響は?? | 三井住友信託銀行株式会社

 銀行さんだけに外貨預金がオススメという話に展開されているが、グラフで示されているように、東日本大震災・福島原発事故を契機に’11年下期辺りから輸出金額が伸び悩む反面、輸入金額が単調増加基調にあり、それゆえ貿易赤字も単調に増大し続けているのが現実なのだ。

USドル/円の為替レートの推移 ? 世界経済のネタ帳
http://ecodb.net/exchange/usd_jpy.html
第3次安倍内閣が発足。記念撮影に臨む安倍晋三首相(前列中央)ら=12月24日夜、首相官邸
 2012年10月頃から明白に円安が進行している。一般に輸出企業は、ドル建ての輸出商品販売代金から円建ての費用原資を捻出しなければならないので、ドル売り円買いの経済主体となり、すなわち円高圧力要因となる。逆に輸入企業は、円建ての商品販売代金からドル建ての輸入原材料代金を捻出しなければならないので、円売りドル買いの経済主体となり、すなわち円安圧力要因となるのだ。
 
 なお財務省貿易統計が物流基準で税関が計上するものであるのに対し、為替レートは資金の流れに基づく外為取引の結果変動する値であり、さらに一般に貿易会社は為替リスクをヘッジする為に為替予約といった取引や通貨オプション・通貨スワップといったデリバティブ取引を絡ませることがほとんどで、貿易収支の動きと為替レートの動きには当然にしてタイムラグが生じることは理解されたい。

 ちなみに輸出企業の代表格がトヨタ自動車で、輸入企業の代表格が東京電力である。輸出企業と輸入企業は為替レートに関しては利害が反対で、輸出企業が円高局面で悲鳴をあげる一方で円安局面では沈黙を守り、輸入企業が円高局面で沈黙を守り円安局面では悲鳴をあげるという具合に、その言動も正反対の関係にある。

 以上、論じたように「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」という命題は誤りであり、誤った命題から議論を発展させても誤った結論にしかならない。