飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授)

 2012年末の政権交代以降、日本経済の「潮目」が明確に変わったことは確かだ。株価・為替・雇用についてその数字を繰り返す必要はないだろう。

 さらに、アベノミクスの勢いを大きくそぐこととなった14年の消費増税ショックもようやく一巡しつつある。先日発表された9月の日銀短観で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた「業況判断DI」は、大企業で製造業・非製造業ともに20を超える。これは10年ぶりの水準であり、大企業の景況感がリーマン・ショック前まで回復していることを示している。そして、中小・中堅企業を含めても同指数は15となっており、これは27年ぶりの数字である。製造業・非製造業間、地域間、企業規模間の格差が相対的に小さい点も今回の景気拡大の特徴だ。

 アベノミクスの政策目標である2%のインフレは達成されていないが、その意味するところは政策の失敗ではない。昨夏の寄稿で指摘したように、鈍い賃金上昇、その結果としての低インフレといまなお続く雇用の拡大が同居している状況は、日本経済の潜在能力の高さを意味している。

2013年2月、「三矢の訓」を説いた戦国武将・毛利元就が
本拠地とした広島県安芸高田市から贈られた「三本の矢」を
手にする安倍晋三首相(酒巻俊介撮影)
 ここであらためてアベノミクスとは何かを振り返ってみよう。当初のアベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を誘発する成長戦略」の三本の矢であるとされていた。金融政策において大きな転換が行われたことは確かである。だが、成長戦略についてはようやく働き方改革の検討が始まったばかりだし、社会保障改革については手つかずと言ってよい。まだまだ不十分というのは多くの論者の見解が一致するところだろう。しかし、後述するように成長戦略はいわゆる構造改革のみによって達成されるわけではない点にも注意が必要だ。

 一方、アベノミクスへの評価をめぐる議論でいつも混乱の元となるのが財政政策である。「財政・金融政策をフル稼働させて短期的な経済浮揚を果たしただけだ」といった言及が行われることがあるが、これは二重に誤りである。第一に、安倍政権下の財政運営は拡張的なものではない。アベノミクスのマクロ政策運営の基本方針は「金融緩和+財政再建」である。

 政府支出(正確には公的需要)の対国内総生産(GDP)比は12年第4四半期の25・3%から17年第2四半期には24・5%まで低下している。また、政府の赤字を示す資金循環勘定の国と地方の資金過不足の対GDP比は-7%台から17年第2四半期には-1・8%(季節調整値)まで改善した。14年の消費増税だけでなく、支出の抑制や景況の回復による自然増徴によって財政再建が進んでいる。終盤を迎える衆院選をめぐる政策論争に際し、ここ数年の日本経済が抑制的な財政運営の中、事実上金融政策のみで一定の経済浮揚効果を得てきたという点を忘れてはならない。