澤田克己(毎日新聞記者、前ソウル支局長)

 日本上空を飛び越す北朝鮮の弾道ミサイル発射は日本にとって大きな脅威だが、その感覚を他国と完全に共有するのは難しい。韓国メディアで見聞きする論評のうちのある一言は、そのことを実感させる。韓国のネットでは「日本は騒ぎ過ぎだ」という声が多いというけれど、メディアに出てくる人々がそんなことを言うわけではない。「日本の上空を通過したのだから日本人が大騒ぎするのは当然だ。もし韓国の上空だったら我々だって大変な脅威を感じるはずだ」と言うのである。日本の対応に理解を示しているのだが、どこか他人事という響きは否めない。
北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある片側8輪の発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同)
北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある片側8輪の発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同)
 そもそも韓国は以前から北朝鮮の脅威にさらされているから、脅威のレベルが特段上がったとは言えない。あるいは、韓国人は北朝鮮の脅威に「慣れてしまっているから」という説明もされる。どちらも間違っているわけではないが、それよりも冷戦終結後の四半世紀の間に起きた変化の影響が大きいと思われる。

 一方で最近は、過去最大規模の核実験を受けて韓国でも危機感が急上昇していると報道する日本メディアもあるようだ。しかし、これも実態はあやしい。広島型原爆の10倍以上という爆発規模は韓国でも驚きを持って迎えられ、在韓米軍への戦術核再配備や独自核武装を声高に語る保守系政治家や保守系メディアが出ていることは事実だ。ただ、実際には韓国ではこれまでも同様の主張が繰り返されてきたし、世論調査の数字を見れば核実験で脅威認識が高まったとは言えないのである。

 9月の核実験直後に韓国ギャラップ社が実施した世論調査がある。韓国の独自核武装論に「賛成」という人が60%を占め、「反対」35%を大きく上回ったというものだ。これだけ見ると、今回の核実験で韓国でも危機意識が高まったのかと感じる人もいるだろう。

 だが実際には、この結果はこれまでの調査と変わらない。同社は発表資料に過去3回の核実験直後に行った調査結果を付しているのだが、それを見ると13年2月(3回目の核実験直後)が64%、16年1月(4回目)54%、9月(5回目)58%。今回を含め、ずっと6割前後である。

 米ランド研究所が90年代後半に韓国で実施した「もし北朝鮮が核武装したら韓国も独自核武装すべきか」と聞いた世論調査を見ると、核武装に賛成が96年9月調査では91.2%、99年2月調査で82.3%だった。北朝鮮の核開発を巡る状況が当時とはまったく異なるので同列に並べることは難しいが、長期トレンドで見れば韓国における核保有論は減少しているとさえ言える。