古谷経衡(文筆家)

 韓国慶州北道星州(ソンジュ)郡―。ウリ畑が広がる韓国の典型的な田園地帯が、にわかに脚光を浴びるようになったのは、この地にTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備が決定され、住民を巻き込んだ熾烈な反対運動が展開されたことが契機であった。私は星州の山間部の土地にTHAAD一式が持ち込まれて数カ月後の2017年5月、いまだ頑強な反対運動に揺れる現地を訪れた。

 この土地は元来ロッテ財閥の有するゴルフ場で、それがTHAAD配備へ提供されたものだから、一時期中国ではロッテ社製品の不買運動も起こったほどである。THAADはその索敵範囲が中国本土へ奥深く食い込むことから、星州への配備を警戒する中国民衆の怒りを買ったものだった。

 星州は牧歌的な農村で、ソウルからKTX(韓国高速鉄道)で2時間半といったところにある。全住民は100世帯2、3百人といったところ。この集落の公民館は、事実上、韓国全土から駆け付けたTHAAD反対派の根城となって久しい。星州に入ると、いたるところに米軍ミサイル反対、平和、戦争反対の横断幕が翻っている。中心になっているのは韓国国内の労組や、左派系市民団体。多くがソウルやプサンなど地元以外の大都市からの「出張」である。
韓国・星州のTHAAD配備地近くに掲げられた反対派の横断幕
韓国・星州のTHAAD配備地近くに掲げられた反対派の横断幕
 すわ私の脳裏に、沖縄・高江におけるヘリパッド反対運動がデジャヴした。高江もその人口140人ほどの集落に、県内外から反対派が集まってヘリパッド反対、平和、戦争反対の横断幕が広がっている。が、伝統的に労組の組織動員に一糸乱れぬ組織力を発揮する星州の方が、その規模とスケールにおいて高江に3倍するものと見えた。

 通訳を従えて反対派や移民の話を聞いた。反対派が口をそろえて曰く「THAADは中国との要らぬ摩擦をもたらす」「米軍の世界戦略の犠牲になっている」。一方、北の脅威に対しての抑止力としてのTHAADへの評価は「THAADは戦術的に無意味」「THAADではなく対話によって北(北韓)との問題を解決すべき」と判を押したように回答が返ってきた。

 では、公民館を反対派に占拠された地元住民はどう考えているのか。結論から言えば、驚いたことにほとんどの地元住民がTHAAD配備に反対であった。

 まず、地元住民曰く、「THAAD配備に際して国や自治体から何の説明もなく、また補償金や迷惑料などの支払いもない」。住民はTHAAD云々などよりも、地元への説明なしに配備を強行した朴政権(当時)に怒り心頭といったご様子。

 また、こんな意見も住民から多く上がった。「THAADから発せられる電磁波が人体に悪い影響を与えると聞いてすごく心配」。おそらく、THAADに付属する高機能レーダーから発せられるある種の電波の類が、人体に悪影響を与えるという疑似科学の部類だろうが、地元住民の多くがTHAAD反対理由の大きな一つとして「電磁波による悪影響」を上げていた。なんでも「THAADが発する電波によってガンになる」と喧伝する学者が講演会に来た影響もあるとか。

 THAADに付随するレーダーは、在日米軍により日本に配備されているXバンドレーダーと基本的には同じものだ。このXバンドレーダーがある青森県つがる市の車力(しゃりき)や京都府京丹後市の経ヶ岬(きょうがみさき)では「電磁波による健康被害」など、私は寡聞にして聞かないのであるが…。