倉山満(憲政史家)

 小池百合子は愚かである。しかし、考え無しに小池百合子を批判した者は、はるかに愚かである。

 そもそも、今回の総選挙で小池百合子希望の党代表の勝利条件は何だったであろうか。

 一、 過半数である233人をはるかに上回る数の候補者の即時擁立。
 二、 衆議院選挙勝利、政権奪取。
 三、 2018年3月の日銀人事勝利(参議院自民党の切り崩し)。
 四、 創価学会・共産党に対抗しうる組織政党の構築。

 一と二に関しては、総選挙の結果が明らかとなり、現在の小池と希望の党の惨状を見れば明らかだろう。一気に政権にありつけねば、空中分解する。今や昔となってしまった小池人気など、その程度の基盤しかなかったのだ。
 三に関しては、多くの人が勘違いしている。希望の党が衆議院選挙で勝利したところで、参議院では自民党が単独過半数を握っているのである。仮に政権を明け渡しても、参議院で拒否権を行使して早期退陣に追い込むことも可能なのだ。少なくとも、衆参がねじれた場合、首相は野党第一党との妥協を強いられる。しかも、日銀人事には衆議院の優越が効かない。
街頭演説する希望の党の小池百合子代表と民進党の前原誠司代表=2017年10月、東京都墨田区(松本健吾撮影)
街頭演説する希望の党の小池百合子代表と民進党の前原誠司代表=2017年10月、東京都墨田区(松本健吾撮影)
 かつての民主党は参議院でのねじれを利用し、ことごとく拒否権を行使して死に体に追い込み、遂には政権を奪取した。特に、日銀人事では当時の自民党案をことごとく拒否した。逆に、安倍首相は日銀人事に勝利して意中の黒田東彦総裁と岩田規久男副総裁を送り込み、アベノミクスによる景気浮揚と支持率向上で長期政権の基盤としている。来年3月に任期が切れる日銀人事こそ、日本経済すなわち政権の死命を制する天王山なのだ。果たして、小池にいかなる成算があったか。“野党第一党の自民党”が聞き分けがいいか、あるいは参議院自民党を切り崩すかをしなければ、“小池首相”は短命政権に終わる可能性もあったのだ。かつての福田康夫や麻生太郎の内閣の如く。

 四に関しては、組織の重要性を認識させられた選挙だったから、わかりやすかろう。自民党が創価学会抜きでは選挙で戦えない政党なのは自明である。立憲民主党が共産党との提携により息を吹き返したのは記憶に新しい。

 今回、希望の党は連合の支持を固めることができなかった。仮に一気に政権を奪取したところで、組織政党の構築無くしては、かつての細川内閣の二の舞になる。これだけの条件がそろって、はじめて小池は勝利なのである。果たして、勝率はどれほどだっただろうか。

 私が小池の参謀ならば指南しただろう。

 明治維新よりは、楽勝だ。

 その覚悟が無いならば、おとなしくしていればよかったのだ。「今回の総選挙で既成政党と野合しない。都政に専念する」と宣言しておけば存在感が増し、次の総選挙で決戦を挑むことができたかもしれない。民進党が死のうがどうなろうが、知ったことではない。その判断ができず、中途半端な対応に終わった。これを「小池百合子は愚かである」と評する理由である。

 しかし、逆の立場で考えよう。小池の現実的な勝利条件は「明治維新よりは可能性がある」程度であった。それにもかかわらず、小池を批判した者は、どういう了見だったのか。極左勢力が息を吹き返すのを望んでいたのか。