逮捕後に顔を両手で覆った連続殺人犯、白石容疑者の心理

『碓井真史』

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碓井真史(新潟青陵大学大学院教授)

 9人分の遺体の「一部」発見。事件の第一報を聞いたときに、これは典型的な連続快楽殺人だろうと思った。ほとんどの殺人者が1人しか殺さない中で複数殺人はまれだ。複数殺人の中でも、一度に大量の人を殺害する大量殺人者は自分自身の人生ももう終わりにしたいと思っているので、彼らは多くの人に目撃されながらでも殺人を犯す。一方、連続殺人犯はできるだけ見つからないように殺人を犯す。
9人の切断遺体が見つかったアパート(奥)。目の前を小田急電車がひっきりなしに行き交う=2017年11月、神奈川県座間市
 連続殺人犯にとっては、殺人は楽しみであり、できるだけ長く何度でも殺人を犯したいからだ。連続殺人の多くは快楽殺人である。金目当てなどの目的ではなく、殺人自体に快感を覚える。殺害後に遺体を傷つけることに快感を味わう犯人もいる。殺人の「記念品」「戦利品」として、被害者に関するものをコレクションする場合も多い。

 連続殺人犯は、まず殺人を想像して楽しみ、実行して楽しみ、殺害後は記念の品を見て楽しむ。まるで私たちにとっての海外旅行のようだ。そして、次第にその楽しさが薄れてくると、次の殺人に思いをはせるようになる。連続殺人者は殺人をゆっくりじっくり楽しむ。また犯人は、警察や世間をあざ笑い、雄弁に堂々と自らの正当性を語ることもある。今回の事件もそのような連続殺人だと思った。

 ところが、次々と情報が伝わる中で、典型的な連続快楽殺人とは異なる情報が入ってきた。容疑者は金目当て、性的暴行目的だったと語っている。部屋に残された9人分の骨と頭部は、捨てたかったが、犯行発覚が怖く捨てられなかったという。そして、わずか2カ月の間に9人を殺害したという殺害ペースも早すぎる。供述内容も、そして送検される容疑者の姿も、堂々とはしていない。

 しかし、彼の言葉をそのまま信じることも難しい。通常の殺人者なら、こんなに次々と殺人を実行することはほとんどない。通常の殺人者なら、せっかく手間をかけて遺体を切断したなら、証拠を残さないように全て処分するだろう。自分が殺した多くの遺体の一部に取り囲まれて、異臭が満ちたワンルームのアパートで暮らすことは難しい。

 容疑者は、遺体の頭部は切断し、体の部分は全て肉をそぎ落とし、内臓とともにゴミとして捨てたと供述している。通常の殺人者も遺体処理に困って遺体を切断することはあるが、ここまでの作業はしない。また彼は、遺体の処置に最初は3日かかったが、次第に1日でできるようになったとも供述している。まるで技術者が自分の腕が上がったことを自慢しているようだ。

 これらのことを考えると、やはり彼には快楽殺人の部分があったと思わざるを得ない。彼の供述通りなら、確かに金も欲しかったのだろう。性的暴行もしたかったのだろう。同時に、殺害や遺体損壊にも興奮していたのではないだろうか。

 だが、金目当てや乱暴目的という犯行は、ひどい話だが、常識的にも理解されやすい。しかし、殺害や遺体損壊への快感は話しやすくはない。それはまだ彼の心の秘め事であり、今はわかりやすい犯行目的を語っているのかもしれない。
未熟な連続快楽殺人

 容疑者の供述によれば、最初の被害者女性とは殺害前にも会話をしているようである。彼は、この女性のことをさらに求めたのかもしれない。2人になったときに交際を迫ったか、あるいは最初から乱暴目的で2人になったのかもしれない。だが女性に抵抗され、そこで彼は女性を殺害したのかもしれない。乱暴し、殺害し、遺体を切断する。彼はこの行為に、自分でも戸惑うほど興奮したのかもしれない。彼の心の底に潜んでいた快楽殺人者の心にスイッチが入ってしまったのかもしれない。

 彼はこの異常な欲望を抑えることができなかったのだろうか。猛烈な勢いで次々と女性を誘い出し、殺害と遺体の切断を続けたのだろう。海外で見られるような典型的な連続殺人犯はある意味自分自身を受け入れている。自分の異常な欲望を理解し、行為をじっくり楽しみ、自分自身とその行為を正当化する。今回の容疑者は、そこまで心が進む前に数多くの殺害を実行してしまったのだろう。そこには、女性を誘い出し2人になりやすいネット上の自殺志願者の集まりの存在が影響しただろう。彼は典型的な連続快楽殺人者ではなく、未熟な連続快楽殺人と呼べるだろう。

 また彼は犯行前、周囲に自殺をほのめかすような発言をしている。典型的な連続殺人犯は、長く殺人を楽しもうと思うが、彼は自分の人生は残り少ないと感じる中で、一気に多数の殺人を犯したのかもしれない。

 大胆で巧みな連続殺人、異様な遺体処置の仕方。ここまでは連続殺人者らしい凶悪さを感じる。その一方で、次第に増えていく遺体の一部と強まる異臭に戸惑ってもいたのだろう。おもちゃで遊ぶのは楽しいが、夢中になって遊んでいるうちに、自分では片付けられないほど散らかしてしまった子供のように。

 送検される容疑者は、両手で顔をしっかりと覆っていた。マスコミのカメラを避けるように容疑者が顔を隠すのはよく見る風景だ。だが、彼が両手で顔を押さえつけているのは、単に顔を隠しているのではなく、苦悩している姿のように私には思えた。夢中になって殺人を続けていたこの2カ月。彼は自分でも自分を見失っていたのだろう。逮捕され、初めて彼は自分の心の深い闇をのぞき始めたのかもしれない。
2017年10月1日、送検のため、警視庁高尾署を出る白石隆浩容疑者
 だがそれは、私たちが望むような被害者とご遺族に対する反省の思いではない。彼が悔恨の涙を流し謝罪するまでの道のりは長い。彼は、どんな人物なのか。彼の心の中で何が起き、現実の犯罪はどう実行されたのか。被害者は多く、彼の心の闇は深い。真実を解明する長い旅は、まだ始まったばかりだ。

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