とすると、やはり一つのキーワードとして、先に述べた「ネクロフィリア」、あるいは「サディズム」のようなゆがんだ性的嗜好の存在が推定できる。一般的に、このような連続殺人事件の場合、そこには大きなゆがんだ衝動があり、さらに衝動コントロール不全がある。これを1人の犯行だとすると、9人も殺害し、その遺体をバラバラにするのは、想像以上に相当なエネルギーと労力がかかる。

 それをわずか2カ月の間にやってのけるというのは並大抵のことではない。したがって、そこにはきわめて強い動機や衝動が想定されるわけである。そして、これだけの大きな衝動、しかも一過性ではない連続した衝動には通常、強い性的な欲動が伴っている。

 この事件でまず思い出すのは、1997年の「酒鬼薔薇事件」(神戸連続児童殺傷事件)である。犯行に及んだ「元少年A」が発表した『絶歌』という手記のなかで、彼は自らが下した遺体損壊の状況を克明に記述しており、その際に抱いた性的興奮のことも赤裸々に告白している。つまり、元少年Aの場合も、単なる殺人衝動というよりは、殺害行為そのもの、または被害者の苦痛、あるいは遺体に対するゆがんだ性的興奮をかき立てられていたわけであり、精神鑑定では「性的サディズム」の存在が指摘されている。
店頭に並ぶ、神戸連続児童殺傷事件の加害男性が「元少年A」の作者名で出版した「絶歌」=2015年9月、神戸市中央区(頼光和弘撮影)
店頭に並ぶ、神戸連続児童殺傷事件の加害男性が「元少年A」の作者名で出版した「絶歌」=2015年9月、神戸市中央区(頼光和弘撮影)
 もう一つ、2005年に大阪で起きた「自殺サイト連続殺人事件」との類似性も指摘できる。この事件では、男女3人が犠牲になったが、犯人の前上博・元死刑囚は2009年に死刑が執行された。彼は、自殺サイトで知り合った被害者を言葉巧みに誘い出し、相手の口をふさいで窒息させ、もがき苦しみながら死亡する様子を見て性的興奮を味わっていたという。

 そして、動機とならんで不可解な点は、遺体を損壊し、それを自宅に「保管」していたという点である。遺体損壊する犯人には、普通は二つの動機があり、一つは激しい憎悪のため、そしてもう一つは証拠隠滅のためである。前者は本件の場合、当てはまらないとすると、後者の可能性が考えられる。

 ただし、この場合も証拠隠滅のためには、バラバラにすれば、それを捨てたり、埋めたりするのが通常である。それを身近に置いていたというのであるから、やはりそこに彼なりの「意味」があったのであろう。もちろん、1人の犯行だと仮定し、車などの運搬手段もなかった場合、単にそれを捨てることができなかったというのが一番単純な理由であるかもしれないが、そうだとしても、ワンルームのアパートで9体もの遺体に囲まれて毎日寝起きしていたというのは尋常ではない。

 この種の犯人の場合、犯行を何度も思い出しては頭の中で反芻(はんすう)し、ゆがんだファンタジーを膨らませて、興奮状態を追体験するということがある。遺体の一部を部屋に保管していたのは、そのための「道具」として用いた可能性がある。

 過度にセンセーショナルな推測は慎むべきだとしても、やはり本件には、このようにゆがんだ性的欲求にもとづく快楽殺人、「死体愛」といった病理を一番の動機として推測せざるをえない。