渋井哲也(フリーライター)

 神奈川県座間市内のアパートでの死体遺棄事件の第一報を聞いたとき、特に関心を寄せる情報はなかった。しかし、「自殺サイトがからんでいる」「遺体の数は9人」という情報が入ってくると、当初の印象を裏切り「ネット心中」ではないかと思えた。

 ネット心中とは、自殺系サイトで「一緒に死ねる人募集」などと書き込み、見ず知らずの自殺願望者たちが集団自殺を図ることを指す。最初の「ネット心中」は2000年11月、福井県内で男女の心中遺体が発見された。男性は福井県内の歯科医師、女性は愛知県の元OLだった。死因は睡眠薬の大量摂取による中毒死だった。2人に唯一あった接点は自殺系サイトだった。2人が悩みを書き込んだのが同じ掲示板だった。

 ただ、新聞の社会面を賑(にぎ)わせたものの、この頃は「ネット心中」はそれほど注目されなかった。

 むしろ、連鎖するのは03年以降だ。2月、埼玉県入間市のアパート内で3人が死亡しているのが発見された。死因は一酸化炭素による中毒死。遺体のそばには練炭が置かれていた。この事件が報道されると、ほぼ同じような「ネット心中」が続いたのだ。

2004年10月、男女7人が練炭自殺した埼玉県皆野町の公園の駐車場。
手前のレッカー車に積まれているのは自殺に使ったワゴン車
(産経新聞社ヘリから)
 中でも、個人的にも忘れられないのは04年10月に起きた、7人による「ネット心中」だ。この呼びかけ人の女性を私は以前から取材をしていた。女性の死にたい理由を聞いていた。そのため、死を考えてしまう背景は理解できていた。未遂を繰り返すこともあったが、自殺の話をする相手として存在することが、彼女と私の関係性を成り立たせる理由だった。

 しばらく会っていなかったが、04年9月に会ったときには「ネット心中」が話題になり、すでに呼びかけていることを私に告げた。彼女が語ったいくつかの自殺の話の中で最もリアルな話だった。そのために「(ネット心中を)やめなよ」と口にしてしまった。関係を成り立たせる基盤が揺らいだのを今でも覚えている。その後、彼女は私と会うことを避けるようになり、呼びかけに応じた他の6人と一緒に亡くなった。