斉藤章佳(精神保健福祉士・社会福祉士)

 東京・八王子市で23歳の女性が行方不明になり、女性と自殺サイトでつながりがあった神奈川県座間市の27歳の男(S氏)の自宅から少なくとも9人の遺体が見つかった。現段階では、ニュースなどで報道されている以上の情報はないが、S氏の新たな内容として一部の女性に関しては「性的暴行を加えて殺した」という趣旨の供述をしているという。また発見された遺体は、幼い児童ではないが10代前後のものも含まれているという(平成29年11月1日現在)。

東京地検立川支部を出る白石隆浩容疑者
=2017年11月1日、東京都立川市(川口良介撮影)
東京地検立川支部を出る白石隆浩容疑者
=2017年11月1日、東京都立川市(川口良介撮影)
 本稿では、仮にこの事件が「精神疾患診断・統計マニュアル」(DSM-5)の性的サディズムの要素を根拠にした反復する快楽殺人であると想定し、限られた情報の中で性的嗜癖(しへき)行動(性的なアディクション)の側面から検証した上で簡単に意見を述べたい。また、著者が今年8月に日本初の痴漢の専門書『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)を出版したが、この中で再三述べた「性暴力は性欲ではなく支配欲の問題」であるという観点から、本事件にも若干の考察を加えたい。

 なお、ここに書いた論考はあくまでも現在の報道の中で得た情報をもとに分析したものであり、これから明らかになる事実と異なる可能性を内包している点は断っておきたい。

 まずDSM-5でいうところの性的サディズム(Sexual Sadism Disorder)について記す。性的サディズムとは、他者に対し身体的・心理的な苦痛を与えることにより強烈な性的興奮を覚える、といった症状や病態を示す精神疾患をいう。以下は簡単な診断ガイドラインである。

A 少なくとも6カ月間にわたり、他者への身体的または心理的苦痛から得られる反復性の強烈な性的興奮が、空想、衝動、または行動に表れる。
B 同意していない者に対してこれらの性的衝動を実行に移したことがある、またはその性的衝動や空想のために臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

 本事件の供述内容から、8月頃から人を殺し始めたという報道があるため診断基準Aの「少なくとも6カ月にわたり」というのが該当するかどうかの判断が難しいが、「性的暴行を加えて殺した」という供述からその可能性は高い。また、いきなり二カ月前からそういった殺人願望を抱くようになったのではなく、以前からそのような空想やファンタジーはあったと推測したほうが自然である。一方、別の視点で死体を損壊した過去の猟奇的事件を振り返りながら本事件を眺めてみると、首を絞めて窒息させながら性行為を行う窒息性愛(ハイポクシフィリア)、死体と性行為をする死体性愛(ネクロフィリア)や、その損壊した人肉を食す食人性愛(カニバリズム)の可能性も否定できない。

 S氏は「8月下旬以降で9人を殺害し、遺体を証拠隠滅しようとした。浴室で遺体を解体した」と供述している。浴室で遺体を解体するシーンは、神戸市児童連続殺傷事件の少年Aの出版した自叙伝「絶歌」の中に、かなり詳細に記述されていた死体損壊場面を想起させる。このとき少年Aは、殺害した少年の死体をのこぎりで切りながら射精している。少年Aの場合は、カエルの解剖や猫殺しからはじまり、最終的には人間をバラバラにするという快楽殺人を行っているが、一貫してその行動は性的衝動や興奮が伴っている。また、カエルから人間まで徐々にその性的嗜癖行動のエスカレーションが見られる。以下に、性的サディズムを性的嗜癖行動と捉え「行為・プロセス依存」の側面からその特徴をまとめてみた。

【強迫性】
 「それをやらずにはいらなれない」気持ちになることである。打ち消そうとしてもその考えが頭からこびりついて離れず、行動に移さずにはいられなくなる。性的倒錯行為はその行為をするときだけでなく、一日中、対象行為をすることを考えている。そこには非常に強い執着心がある。

【反復性】
 損失があるにもかかわらず何度もくり返すことである。例えば、逮捕まで至らなかったけど女性に抵抗されたでは彼らの行動は止まることはない。逮捕され罰金や示談金を払っても、仮に刑務所に入ったとしてもまたくり返す人はいる。だからこそ罰を与えるだけでは効果的ではなく、本事件のような被疑者であっても再犯防止を狙いとした治療が必要だとわれわれは主張している。